テーマ;【貴方が好き】






「鉄原で 面白いことを計画されていると聞きました」


そう言ってニッコリと微笑む王妃は、年齢を重ねた今も 相変わらずの好奇心いっぱいのキラキラした瞳を ウンスへと向けた。
末息子ヨンスが生まれた後 ウンスの体調が思わしくない日々が続き、なかなか『王妃の主治医』の役目を果たせなかったウンスだったのだが、今日は久しぶりに皇宮へと出向いて 王妃へと面会している。


「お耳が早いですね 王妃様」
「ええ。義姉さまのことですから」


天界から連れてこられた女人の医員と 宗主国・元から王に嫁いできた姫君とでは立場が違いすぎるが、『もう故郷には戻れない』という点では変わりがない。
先に『天界の姉』を名乗ったウンスは、コンミン王のために単身嫁いできた彼女に 同じような心細さを分かっている存在として 支えになれればと思って話したのがキッカケだったが、四年のウンスの不在の間に 王妃はその立場をたった一人で完全に確立し、戻ってきたウンスの力になってくれたのだった。
その一つが 元にいる王妃の実の両親に ウンスを養子としてもらうということであり、ウンスは知らないうちに 本当に王妃の義理の姉になってしまったのである。

王妃もまた 意識がなかった時のこととはいえ、命の恩人であるウンスのことを 気にかけてくれているのであろう。
時が経っても 二人の仲の良さは変わらなかった。


「『感謝祭』というものを 鉄原で企画しているのです、王妃様」
「『感謝祭』ですか?」
「ええ」


聞き慣れない言葉に首をかしげる王妃に ウンスは笑いかける。
いつまでたっても 王妃は好奇心旺盛の可愛らしい少女のような人だと思った。


「ここ数年、鉄原は不作続きだったのです。天候がなかなか安定しなくって」
「ええ、そうでしたね」
「ですが、今年は久しぶりに豊作が見込めたので、少し前から企画していたのです。 本当はすっからかんになってしまった備蓄に少しでも多く回すべきだと 言われたのですけど」
「まぁ」
「ここ数年 民も我慢を強いられてきたのですもの。豊作に感謝して また来年以降も頑張ろうと 労ってもいいんじゃないかなって思ったのです」
「そうなのですね」


チェ・ヨンは確かに鉄原の領主である。 そのことはウンスも当然承知していたのだが、この時代の『領主』が あくまでも『王の代わりの統治』であることは知らなかった。
あくまでこの高麗という国の土地は 国王のものであり、それを領主が借り受ける形で統治し その土地の民を養っている、という形だ。
だから 収穫された作物は 地代として領主へ、領主から国へという形で税が納められるのだ。
だから ウンスの思いつきも すぐさま実行に移せたのでは決してない。


領主であるとはいえ チェ・ヨンだけの権限で行えるものではないため、なかなか大変だったのだ。
まぁ、ウンスとしては 最初に『チェ・ヨンにプレゼンする』というのがミッションだったのだが。


実際、数年の不作続きで 溜めてあった備蓄も底をついていたため、チェ・ヨンを納得させるためにウンスも苦労したのだが、チェ・ヨンも王や重臣たちを説得して ようやく実現できそうなのだ。


「では 数日後に鉄原へ?」
「はい。馬車旅になるので 末息子は置いて行こうと思ったのですが、頑として言うことを聞かなくって」
「妾も行きたい位なので 子供ならば当然でしょう」
「うふふ 何かお土産にできたら持ってきますね」
「ええ お気をつけて」


皇宮から原則出られないはずの王妃が チェ家の屋敷にお忍びでやって来たのは 実は片手で足りないほどもあるが、領地にまでご一緒することは流石に叶わない。
ウンスは 王妃に挨拶を終え 感謝祭に合わせるために(夫チェ・ヨンとは異なりゆっくり馬車旅なので 彼女が早く出発するのだ)開京を出発したのだった。





「・・・イムジャの言う通りであったな。 民の顔が違う」
「締め付けるだけでは 民にも貴方にもためにはならないと思ったの。皆いい笑顔でしょう?」


贅沢はできないが、ささやかでも喜びを分かち合うことはあってもいいのではないか?
ウンスがそう言った時、チェ・ヨンは当初反対気味だった。
一年分の蓄えはあったつもりでも 不作が(完全に収穫ゼロではないとはいえ)数年続き、税を取り立てることさえままならないような状況から 一点豊作だからとはしゃぐのはどうか?と思ったのだ。


だが、ウンスの思いは強く、彼女に説得され チェ・ヨンも考えを変えて動いた。
父が亡くなって16で引き継いだ領主の地位だが、長年叔母と鉄原の遠縁に任せきりだったこともあり、祭りを楽しむ民らの笑顔を見て やっと領主らしいことができたように思う。


「ねぇ 貴方」
「なんだ?」
「大好きよ」
「・・・なんだ 急に」


飲みかけの酒を吹き出しそうになりながら チェ・ヨンは傍らの妻を見た。
飲み物を飲んでいる時に口に出したのは確信犯だろう彼女は、悪戯っぽく笑っている。


「私の思いつきを 邪険にしないでくれてありがとう」
「・・・いや」
「・・・出会ったばかりのときは 『駄目です』以外言われた記憶がないくらいだったのにね」
「・・・・・」


出会った頃は ウンスのワガママ(だと思っていた)に振り回されており、確かに『駄目です』と数多く口にした記憶がある。
彼女の暮らしていた世界から 無理やり高麗へと連れてきて、あの夜でも眩しいほどに光り輝いていた世界を高麗にもたらすのは当然無理であるし、彼女自身も高麗に慣れないようにと思ったのかもしれない。
すぐ返すべき人なのだから、と。

チェ・ヨンにしてみれば 奇跡が起こったような感じで、今彼女はここにいる。
あの世界を再現はできなくても 彼女の思い付きを少しでも実現するために 少し努力することは厭わないと思えるようになっていた。


「・・・イムジャが望むのならば 毎年恒例にしてもよいぞ。まかあまり派手にはできぬが」
「う~ん、ある程度以上の豊作だったら、とか条件をつけたほうがよくない? 鉄原の収支を悪くしたいわけじゃないのよ?」
「・・・そうだな」


『来年も必ず見に来よう』とは口に出せない。
ウンスの体の弱さもあるが、大護軍である彼に いつ招集と出兵の命令がかかるかわからないからだ。


だが、それでも 今は楽しもう。

歌い踊る民たちを 少し離れた場所からそっと見守りながら ウンスとチェ・ヨンはそっと肩を寄せ合っていたのだった・・・。



 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま  熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま  黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま  ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま  牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

ウンスさん それは感謝祭やない、収穫祭や! とツッコミを入れた人は少なくないと思います(笑)

 

あ、ヨンを領主にしちゃってますが、史実にはどこにもそんな記述はないです 勝手に決めつけデス

領主のありかたも 完全適当。 地主っぽい書き方も過去にしていた気がします・・・。

 

ちゃっかり叔母様も休みもらって鉄原に来ていたオチも考えたのですが時間が(割愛)

王妃様久しぶり過ぎて(話を書くの自体久々だけど) 話し方もこれでいいのか分からない・・・(涙)