テーマ;【俺の人】


 

 

「夕餉後の時間にお邪魔し、ご夫妻とお話したい」


普段は 先ぶれどころか 玄関すら使わずに屋敷に入ってくる(屋根からや スリバンの本拠地マンボの飯屋につながる 一応隠された裏道など)『スリバンの白い人』ことハクであったのだが、今回は打って変わって 『一般常識的』なのである。
(そして そんなことをされただけで 屋敷の主チェ・ヨンは 『ハクが面倒な用件を持ってきた』と早くも眉間にしわを寄せている。そしてそれは間違っていない)


「・・・お邪魔するわ。突然悪かったわね」
「どうしたの~? ハク姐。 やだわ、私とハク姐の仲じゃない」
「・・・どんな仲だというのだ?イムジャ」


珍しく、と言っては失礼かもしれないが、普段飄々として様々なものを軽く流している風を装っているハクが、心なしか緊張しているような様子など 見たことがない。
なんとなくいたたまれなくなったウンスが 重い空気を払うために軽く茶化そうとすると、高麗一心の狭いと(一部で)評される彼女の夫が つかさずツッコミを入れたのだった。


「やぁね 貴方。ハク姐は『親友』に決まっているでしょう?」
「・・・イムジャの親友は トギではないのか?」
「もちろんトギも親友だわ。 一人って決まっている物でもないでしょう?」
「・・・そうか」


どうやら チェ・ヨンにしてみれば 『親友』とは一人きりのようである。
確かに とても親しい間柄であっても、テマンならば『弟分』 チュンソクならば『腹心』のほうがしっくりくるので、そういうものなのかもしれない。
(ちなみに チェ・ヨンにとっての『親友』が誰かは 気になるところではあるが、ウンスであってもこの時は聞きづらかったため 夫に尋ねることはなかった)


「・・・で、話をさせてもらってもいいかしら?」
「断る」
「貴方ってば」


ハクの改まった話など ロクな内容ではないことを 経験則として知っているチェ・ヨンはすぐに断るが、ハクの『親友』であるウンスがもちろんそれを許すはずがない。
渋々と話の続きを促すチェ・ヨンを、ハクも茶化す余裕がないようで 淡々と話を始めた。


『高麗』は長く続いている王朝ではあるが、決して一枚岩ではない。
特に宗主国とされている元に対する 現在の王・コンミン王の反元政策に対して 元よりの者たちからは反発を、元に反発する者たちからは敬愛を 向けられるため、国中が二分していると言っても過言ではないのだ。


そして 特に天敵とされる程に仲が悪いのが、開京の北側に領地を持つイム氏と 南側に領地を持つソン氏であった。


しかし、両者の領地は 都である開京を挟むとはいえ かなり距離が近い。
開京の地の大掛かりな整備計画(流れる川の護岸工事からの都市整備計画なのであるが、きっかけは勿論現代人ウンスである) のために 両者ともに協力を仰ぎたいコンミン王が、双方の仲介を模索していたのである。


そこで、イム氏とソン氏に 唯一の共通点とも呼べる接点が見つかったのだ。
それが、ハクが主を務める実家でもある 妓楼・金剛楼なのである。
しかも 開京一と言われる 売れっ子妓生のルビ(ハクの実妹でもある)を大変贔屓にしているのだ。


そこで、金剛楼に イム氏とソン氏の接待の命が下ったのだが、どちらもルビの大ファンとはいえ 二人の仲の悪さは有名すぎることから、チェ・ヨンとウンスに 『隣の部屋での待機』を要請にきたのである。


荒っぽいことがおきれば 軍神チェ・ヨンの出番であるし、どちらかが急病にでもなったりしたら医員であるウンスの出番、ということなのである。
何事もないのが一番であるが、王直々の声掛けとはいえ 安心ともいえない今回の場に、妓楼の主として保険をかけておきたいハクの思いなのだろう。


「・・・そういうことか」
「・・・アンタ、アタシがウンスに妓生の真似事させるとでも思ったんデショ!?」
「・・・・・」


・・・そういうことだったようである。
ハクも ウンスの美貌と社交性の高さから 一瞬も考えもしなかったと言えば嘘になるかもしれないが、ウンスの性格を知っているが故に 男尊女卑の最たるものである妓生など 真似事でもさせられる訳がないことは分かっていた。
女人であるウンスを妓楼に立ち入らせることも 当初は渋ったチェ・ヨンだったが、あくまで隣室に待機であることと 自分が共にいていいということから 渋々了承したのである。


・・・結局、その当日は 鉄原からトギが薬草を持ってやってきていたこともあり、典医寺の医員薬員たちも揃い 宴会のようなものが始まってしまい 全く『不測の事態に備えて隣室での待機』という感じではなかったものの、イム氏がソン氏に ソン氏がイム氏に毒をもったため、ある意味典医寺のみなさんとトギが大活躍ではあったのだった。
(勿論 逃げようとした面々の捕縛は チェ・ヨンとハクが行ったのだが)


結局 これといった出番らしい出番がなかったウンスだったのだが(あまりにトギとナム侍医の処置が早かったのだ) 意識を取り戻したイム氏が 目の前にいた美しい女人(ウンス)を 『自分を救ってくれた恩人』と思い込み 是非自分の(何番目かの)妻となってくれと求婚したため、怒ったチェ・ヨンに 『この女人は俺の女(ひと)だ!』と耳元で絶叫されたそうである。


それに対して 『貴方ってば(照)』と頬を染めていたというのだから、この夫婦 どっちもどっちのようである。


ハク的には ナム侍医たち典医寺の面々の大酒飲みっぷりに引きながらも、経費として王様にたっぷりと請求したらしく、ホクホクだったそうであった。


 

 

 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま  熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま  黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま  ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま  牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

 

テーマ 【俺の人】でしたが、結局最後かなり短縮モードになったのは 時間がなかったせいです・・・。

 

毒としては オゴノリという海藻を考えておりました。紅藻の一種だそうです。

石灰で処理しないと 食中毒を起こすそうで死ぬ場合もあるそうです(とある小説より拝借)

名探偵ウンス・・・というより 名探偵トギと助手ウンス君って感じを考えてましたが、トギの身振り手振りだのウンスの通訳だのを書く時間はなさそうでした・・・(ひとえにPandoriaが話を書かずにスケートを見てたせい)