「~~~~~~!!」


分かっている。 頭では分かっているのだ。
『彼』には悪気はない。 どころか、あの朴念仁が『よく覚えていたな』と称賛に値するほどのことなのだ、と。


しかし、ウンスは納得がいかないのである。
彼女の前の卓の上に こんもりと皿に盛られたせんべいを 八つ当たり気味にバリボリとかみ砕く。
・・・確かに 味はとてもいい、と 思いながら・・・。








『天界』こと現代には山とあって ここ高麗にはおぼない、というものは 結構種類があるが、ウンスにとって かなり痛手となっているのは 『甘味不足』である。
まず 砂糖が高価すぎるのだ。 高麗ではかなり裕福なチェ家でさえ 日常の食事の調味にですら滅多に使えないそれを 『おやつ』に大量に消費することは 奥方であるウンスにもそうそう言い出せはしない。
(彼女に甘い旦那のチェ・ヨンや 女中頭のクネあたりは 何も言わないとは思うが)
贅沢だと分かっているし 贅沢を好まないチェ家の家風も承知しているウンスは せいぜい年一回 クッキーを『バレンタイン』の代わりとして家族に振る舞うのが精いっぱいである。


別に 一月後のお返しを期待していたのではないし、『そういえば昔 お返しのことも話したことあったっけ?』とウンス本人が思ったくらいなのであるから、チェ・ヨンが(たまたま思い出したのだとしても)ウンスに一月後のお返しをしたのは 素晴らしいことだろう。
ウンスも 普段はぶっきらぼうで無表情の夫チェ・ヨンが 心なしか照れたように包みを差し出してきたときは 感激したのだ。


・・・・・だが。


「・・・お煎餅」


確かに 高麗で手に入りやすい 甘くはないが『甘味』と言えなくはないものであるが、ウンス的『ホワイトデーのお返し』としては 最悪チョイスに他ならない。
何故ならば、ホワイトデーにおける煎餅の意味するのは 『大嫌い』なのだから。


「~~~~~~~!!」


混乱したまま 感情のままに声を上げなかっただけでも ウンス的には上出来である。
彼女は泣きながら(それでもしっかりと煎餅の包みを離さないで) 夫チェ・ヨンの前から走り出したのであった・・・。









「・・・なるほど。そういうことね」


ウンスの前の煎餅に手を出そうとして パシッと彼女に振り払われたハクは 仕方がなしに 自分の分の茶をすすってそう呟いた。


「そんなこと言ったってさぁ、アタシらだって アンタの『くっきぃ』に一月後のお返しが必要だなんて初めて聞いたし、更に そのお返しの品で意味合いが変わるなんて 知るわけないじゃない」
「分かってるわよ! わかってるんだけどっ」
「・・・ヨンだったから気になって言うんでしょ?」
「・・・うん」


しょぼん、と ウンスは分かりやすく項垂れた。
そうなのだ。 バレンタインデーすら浸透していない高麗でホワイトデーのお返しなんて 求める気はなかったのだ。
たまたま 夫のチェ・ヨンにだけは ホワイトデーのお返しの話を してしまったようで、それを覚えていてくれているだけで嬉しいのに(しゃべったとすれば酒が入っていた可能性が大なので) 実行してくれただけで感激物である。
だが、その品が 高麗でも手に入りやすい煎餅だったことで、ウンスはふと『お返しとしての煎餅の意味』を思い出してしまい、ショックを受けたのだ。


「・・・アンタさぁ、何日か前 ヨンと出かけるって言ってたでしょ?」
「・・・うん。その前の日具合が悪くなっちゃって 結局行けなくなっちゃったケド」


ウンスは 年齢と共にと言ってはアレだが、年月を経ると共に 若い頃の無茶(毒)がたたって 体調を崩しがちになっている。
チェ・ヨンも 武官としてだけではなく、文官的な役割をも与えられているせいか、なかなか休みが取りにくく それでもかなり前から示し合わせて 二人で出かけようと計画を立てていたのだが、ウンスの体調がふるわず 結局流れてしまっていたのだ。


「二人で出かけて アンタが好きな美味しそうなものを食べさせたいって ヨンは思ってたみたいよ? アイツの肩を持つ気はないけどね」
「・・・・え・・・?」
「それができなかったから せめて甘味の代わりにってことだったんでしょ?」
「・・・・うん」


チェ・ヨンは ぶっきらぼうだし不愛想だし無表情だし 表面上は分かりにくいけど、ウンスのことを大事にしてくれる夫である。
今回だって ウンスの体調というイレギュラーがなければ 存分にその想いをウンスは感じていたはずなのだ。


「コレ、とっても美味しいけど、次からは お煎餅じゃなくって 飴玉にでもしてくれって 言わなきゃね」
「・・・ソウネ」


ヒラヒラと手を振ってやると ウンスはハクに『ありがとねっ』と口パクで礼を言って 屋敷の方角へと駆けだして行った。
実は 彼女からは完全に死角になる柱の陰に 彼女の夫が潜んでいて 二人の話を聞いていたのだが、ウンスはそれを知る由もない。


「・・・恩に着る」
「アラ、珍しいわね、アンタが礼を言うなんて」
「・・・喜ぶと思ったのに 泣いて逃げ出したのだ。 あの方は相変わらず分からぬ」
「そこがいいんでしょ? アンタにはウンスみたいに振り回してくれるのが似合ってるわ」
「・・・・・」
「ホラホラ さっさと帰らないと ウンスが探してまた屋敷を飛び出すわよ?」
「・・・・・」


妻も妻で面倒だが 夫も夫で面倒である。
ハクはそれでも 放っておけないと 今度はシッシッと振り払うように手を振ると チェ・ヨンを追い返した。


「・・・相変わらず 手のかかる夫婦だねぇ」
「まぁ、暇つぶしにはなるんじゃない? 貸しも作ったし」
「今度は何させようかね?」
「ちょっと! マンボ姐!? 貸しを作ったのアタシなんだからね!? なにマンボ姐の貸しにしてるのよ!?」
「アンタの貸しはスリバンの貸しだろう?」
「冗談じゃないわよ!?」


延々と続くマンボ姐とハクのやり取りをツマミに マンボ兄はいつの間にか酒瓶を取り出してチビリチビリと飲みだす。


今日も高麗は 平和なようであった。






 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま  熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま  黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま  ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま  牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い立ったが吉日。 ブログ一覧の1ページ目に 話の更新が 年末年始と特別編しか出てこなくて どんだけ更新してなかったのかと自分に呆れたPandoriaです・・・。

(そしてIEではなく マイクロソフトエッヂにしてからは初めて投稿なので アメーバさんのパスワードから始めなきゃいけなくて困った)

 

ホワイトデー話。 今日投稿するために2日間頑張った! ←やればできるじゃないか

 

PCの中では書きかけ話があるせいで 342番なんですが 書きかけの話を読んでももう続きの流れがわからない・・・(´;ω;`)ウッ…

 

煎餅は 当時高校生くらいだったPandoria実話です(ハート型だったけど煎餅ってさぁ・・・)

今年はP兄がマカロンくれました。 甘さだけが際立つのか美味しさがわからないけど せっかくですので大事に食べます・・・。