お題 【大病(?)】

 

 

 


典医寺は本来は 皇宮に住まう王族のための医療機関ではあるが、高麗でも一番の医療機関であることから 一般の民でも診てもらうことは可能である。

その日は 開京の都の外れで火事があり、高度な医療が必要と判断された重度の患者が次々と運ばれてきていた。


「どけどけ~~! 重臣キム様をお運びするんだ!」
「・・・はぁ?」


逞しい三人の男たち(正式な武官ではなく私兵なのだろう)が 控えめな表現で言えばふくよかな老年の男性を担ぐようにして 典医寺へと駆け込んできたのだが、その際に火傷を負った火事の被害者の民たちを突き飛ばすようにして寝台にのせようとしたため、ウンスの逆鱗に触れたのだ。


「ちょっと!あんたたち! 順番を守って頂戴!」
「なんだと!?女! この方は重臣キム様だぞ!?」
「重臣だろうがなんだろうが、典医寺には患者の重症度によって順番があるのよ! いいからどいて!」
「なんだとぉ!??」


当事者であるはずのキムはそれどころでないらしく のせられた寝台の上で腹を押さえて苦悶の表情を浮かべているが、彼を侮辱されたと思ったらしい部下たちの怒りは ウンスに向けられる。
ウンスも 家事の被害者が想定以上に多くてピリピリしていたため かなり好戦的で、その男たちを睨み付けていた。


「待ってください!」
「・・・ナム侍医?」
「侍医だと?」
「ええ、私はここ典医寺の責任者のナムです。こちらは医仙。キム様はお腹を押さえていらっしゃいますが、どのような状態なのでしょうか?教えていただけますか?」


ナム侍医はクマのような大柄な体格に ニコニコと笑顔を絶やさないギャップのある風貌をしている。
一触即発のウンスと男たちの間に入り 手早く自己紹介すると すぐに患者に向き直った。


「急に腹が痛んだのだ! 早く治療してくれ!」
「・・・キム様 典医寺の医員は優秀でございますが、『腹が痛む』だけでは 治療できません。原因を探り対策が必要で 患者本人の説明が重要なのでございます」
「・・・急に右の腹に激痛が走った。臓物を握りしめられたような痛みだ」
「成程。顔色も若干黄色みがかっておられますね。・・・医仙」
「ええ、胆石だと思うわ。・・・とりあえずお水をたくさん飲んで 片足飛びしていただける?寝台に横になっても改善しないし」
「はぁ!? キム様に何をっ」
「・・・っ」


キムを運んできた男たちが相変わらずウンスに向かって突っかかってこようとするが、いつの間にか彼女を守るように出てきた近衛隊兵士に遮られる。
キム自身も ウンスの言い方にかなりムッときたようだったが、ナム侍医が『医仙』と紹介したことで 彼女の夫が誰なのか思い出したようで、顔をしかめながらも 水を飲み本当に片足飛びをしはじめたのだった。


「・・・まさか、本当に あの激しい痛みが 片足飛びで消えるとは・・・っ」
「あ、おさまったのね。よかったわ」


キムが水を飲みつつウンスに言われた通りに片足飛びをし始めること 十分ほど。
ウンスが何人かの火傷患者を見ている間に キムの腹の痛みは 無事におさまったようだった。


「・・・医仙 ありがとう。 だが、何故 一目見ただけで 『片足飛びをしろ』と? 貴女は儂の脈すら診ておらぬのに」
「正直に言えば、運ばれてきた時点で いくつかの仮説を立てていたの。 手で押さえていた場所と、顔色に黄みがかっていたし 恰幅がいい中高年の貴族階級だということを考えると 胆石という病名が一番可能性が高いってね」
「・・・そうなのか・・・」
「脈はナム侍医が診てくださった方が正確だから 私が重ねて診る必要はないと思ったの。 胆石といっても 重症ならば手術しなければならない事態になるものだけれど、貴方は脂汗を流しつつも会話ができる状態だったし、これだけでおさまる状態でよかったわ」


キム自身は信じていなかったとしても ウンスの言う通りにしたら痛みが引いたのは事実で、重臣という立場にしては珍しく 素直にウンスに礼を言った。


「・・・一番の原因は脂っぽい食事です。胆石というのは 胆のうという臓器の一部に石ができて その場所によって痛みが出るのです。水を飲んで片足飛びをしてもらったのは その場所をずらすためであって 根本的な治療じゃないんです。 完全に治すなら腹を切って石を取り出すのが一番ですが キム様も怖いでしょう? 重臣でいらっしゃるから お仕事で怒りなどを貯めるなと言っても無理かもしれませんが、睡眠時間を十分に取り 野菜を多く食べ 酒や脂っぽい食事を減らして体重を落とすだけで 随分楽になるはずです」


胆石の痛みは ウンスも現代で医者をしている時代に 何人も見たことがある。
現代で使われている有効な薬やレーザー治療などができない高麗では まだ彼女しかできない手術以外では 石の場所をずらすことで痛みを軽減させることしかできないのだ。
だから あくまで予防に特化するしかなく、ウンスはキムにそう忠告する。


「大病にしないためにも ご自愛くださいね」
「ああ、医仙。わかった ありがとう」


部下の男たちは沸点が低いようだが、重臣キム本人は(体格はアレだが)割と素直に頷き、ウンスに礼を言った。
・・・キムは ウンス自身というよりも 彼女の背後にいる彼女の夫に恐怖を感じていたにせよ、大事にならずにすんでホッとしたようである・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま 熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま 黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま 牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お題二個目~。 これも大病予防で 少しズレてる・・・。

『お水飲んで片足飛び』は 『何かで読んだ知識』としか (話を頭で考えている当初)は思い出せなかったのですが、マンガ『大奥』だと思い出しました。

(長崎の遊女が産んだ 外国人(オランダ人)との混血男が大奥入りして活躍する話の途中に出てくる)

というわけで裏を取っていませんので 正確かどうかはわかりかねます(をい)

 

胆のうはともかく胆管だったら ヤバイ痛みだそうです。 P父は以前 石までには至らず『胆泥』だったそうですが、それでも大騒ぎしてたもんな~・・・