お題 【離別(?)】

 

 


「離婚よ~~~!!」


今日も チェ家は騒がしい。
普段は その仲睦まじさが『高麗一』とも評される 大護軍チェ・ヨンと医仙ユ・ウンス夫妻ではあるが、奥方が女だてらに医員として皇宮に出仕するという女傑であるせいか、喧嘩の派手さも高麗一という噂もあるのだ。
そして今日は その派手な喧嘩の方であったらしい。


「・・・・・」


夫であるチェ・ヨンは 『口を開くのすら面倒』と言われるほどに面倒くさがりの上に無口である。
それと同時に 短気でカッとなりやすくすぐ手が出るのでも有名なのであるが、それはさすがに部下に対してであって 妻相手には当てはまらないようだ。
怒れる 口が達者な妻の大騒ぎ(天界風に言うところのヒステリー) を しばらくじっと聞いていたが、耐えきれなくなったのか彼はフイと身をひるがえし そのまま屋敷を後にしたのだった。
まぁ 出仕の刻限が差し迫っていたということもあるのだが。


「もう!! 本気の本気なんだからっ!」


一方 怒れる妻ウンスの方はというと、自分の怒りが収まっていないうちに旦那が去ったことで 更に怒りを増しているようだ。
しばらく座布団を相手にうっ憤を晴らしていたようだが 彼女は突如思い立ったように サンドバックにしていた座布団を放り投げると、頼れる彼女の味方である女中頭のクネを呼んだのであった。

 

 

 

 

 


「・・・どういうことだ?」


その日の夕方、普段よりは若干早めの時間ながら 当主であるチェ・ヨンが帰宅すると、屋敷は文字通りもぬけの殻であった。


「・・・奥は?」
「奥方様は家をお出になると仰り、お子様方を始め 使用人の大半は奥方様について行きました」
「・・・お前は?」
「私は 数日後から遠征にお出になられる旦那様のお荷物をまとめ、お守りする役を仰せつかりました」
「・・・そうか」


もぬけの殻の屋敷を見回し、相変わらずの行動力を発揮するウンスに呆れるべきか 使用人がほとんど彼女について行くだけの人心掌握ぶりを誇りに思うべきか、チェ・ヨンは迷った。
数日後から彼が 少なくても半月、長ければひと月は留守にしなければならないことを知っていて その用意もバッチリとしてくれておきながら 自身はそれを待つことなく家を出てしまったことにも どっと心理的な疲労を覚える。


「・・・あのぅ、旦那様」
「・・・なんだ?」
「奥方様が仰っておりました。『私のことで重臣たちに色々言われたんだって分かってるけど、どうして私の言い分も聞かずにいきなり怒鳴るの? そんなに信用無いの?』と」
「・・・・・」


唯一屋敷に残っていた厩番(そう言えば 現在はウンスの愛馬であるチュホンをはじめ、幼い子供たちの訓練用の仔馬すら厩にいなかったほどにウンスの家出が徹底されていることに彼は今さらながら気が付いた) 手を振って下がらせ、彼は部屋に一人残る。
・・・ウンスの言っていた通りで 彼はぐうの音も出なかったからだ。


ウンスしか知らない史実であるが 『高麗』は終わりの時期に差し掛かっているのと同時に、『元』もまた滅びへの道を歩んでいる。
まだ『明』という元を滅ぼす国家はできていないものの、民から搾取しては贅沢三昧の貴族階級に 民の不満が爆発しつつあり 元という国もそれを抑え込めなくなりつつあったのだ。


そんな中で 『元という国の威光を示すことで民の不満を解消させよう』という考えが出てきたらしく、元としては属国とみなしている高麗に 元の王族を使節として派遣し 歓待させようとしたのだ。
高麗としても アリガタ迷惑な話で できれば断りたかったのだろうが、そうもいかない。
相手が直系でないとはいえ 元の王族であるため、本来は皇宮から出るはずのないコンミン王が直々に 国境とはいかないまでもある程度まで出迎えに出るということになってしまったのだ。


そして 『高麗最強』と言われるチェ・ヨンが その護衛につくのは当然のことで、最低でも半月は留守をすることになる、というのは そういうことなのである。


そして その間 本来ならば留守を預かる夫人たちが 遊びの企画をしている、首謀者は医仙ユ・ウンスである、という噂が流れ チェ・ヨンは ただでさえ長期出張前の多忙な状態であるにもかかわらず 重臣たちからネチネチと嫌味を言われたこともあり ウンスの言い分も聞かずに爆発してしまったのだった。


「・・・情けない」


誰もいない屋敷のなかで チェ・ヨンはポツリと呟いた。
戦ではないが それなりに長期になる遠征の支度、その間に起こりうる事態を想定しての留守番の部下への指示、それに通常の職務・・・。
肉体的ではない 見えない精神的な疲労が、彼の目を曇らせてしまったに違いない。
誰よりも 彼の妻ウンスにとって 味方であるべき自分が、彼女の言い分を聞くことなく 頭ごなしに怒鳴りつけてしまったのだから・・・。


「・・・・・」


出立は迫っている。
行方不明の彼女(屋敷にいないことが分かった瞬間に 皇宮やマンボなど心当たりをあたったのだが、彼女と子供たちはいなかった)に会えたとしても 謝って許してもらえるだけの時間があるかどうかすら微妙である。
焦る彼を救ったのは 当然と言えば当然かもしれないが だが意外な存在だった。


「ぶるるるるる!」


それは 出立を翌日に控え、普段よりもずっと早い刻限に帰宅した日のことだ。
憔悴しきっていたせいか屋敷の前を通り越してしまったまま ぼんやりと馬を歩かせていたチェ・ヨンの耳に 聞き慣れた声が届く。


「ぶるるるるるる!」
「も~、どうしたの?チュホン。急に暴れないでよ」
「・・・チュホン? ウンス?」


ハッとして顔を上げると 屋敷の塀の隙間から見えるのは 間違いなく愛妻と愛馬の姿だった。


「あ、貴方!? ・・チュホン!裏切ったわね!?」
「ぶるるるるる!ぶるるる!」
「裏切ってない? いい加減仲直りしろって!? 酷い!チュホンは私の味方じゃないの!?」
「ぶるるるる!」


ぎゃあぎゃあと 賢いとはいえあくまでも馬であるはずのチュホンと 同レベルで言い合いをしているウンスは、ある意味昔から全く変わっていない。
『高麗名家の嫁』と 彼女の望んでいない肩書を押し付け、その枠組みに無理やり当てはめようとしてしまったのは 自分だ。
その申し訳なさからか チェ・ヨンは愛する妻をようやく見つけても 彼女の元へ一歩も足を向けることができずにいる。


「ぶるるるる」
「・・・貴方?」


そんな様子のおかしいチェ・ヨンにようやく気が付いたらしい一人と一頭は 彼らの方から歩みを進めてきて顔を覗き込んだ。


「・・・会いたかった。 そして すまなかった」
「・・・まぁ、第一声としては 合格ってとこかしら? 家出したことを怒鳴られたら 本気で離婚したかもね?」
「ぶるるるる」
「え~? チュホン、『その場合はついて行く』って本当? さっきだって私よりチェ・ヨンを取ったくせに」


再び愛馬と喧嘩をはじめそうな愛妻を チェ・ヨンは後ろから抱きしめた。


「・・・貴方?」
「今は 明日出立せねばならない俺を優先してくれ イムジャ」
「・・・仕方がないわね、ねぇチュホン?」
「ぶるるるる」


・・・ウンスが計画した『夫人たちの遊び』というのは、夫が今回の遠征に出る妻子たちを 数日間皇宮に招待し、夫の無事の帰還を祈りつつ 普段はあまり交流がない妻たちの交流会を催す、というものだった、と チェ・ヨンはウンスから聞いた。
きっかけは王妃で 本来ならば皇宮から出ることなどないはずの王が 彼女と離れ離れになることに 不安を感じていたのを慰めるために考えたのだという。
皇宮ならば 王の留守中でも護衛の兵士はいるし 武閣氏もいる。
ウンスたちが皇宮に行くならば スリバンの守りもつくだろうから かえって安心だと 叔母のチェ尚宮も大賛成だったらしい。
チェ・ヨンが 悪意を持った重臣たちの言葉に惑わされなければ、何の問題もなかったはずだったのだ。


そうして チェ夫妻の離縁騒動は 一応数日で幕を下ろしたのだったが、『高麗の鬼神』チェ・ヨンは 更に妻に頭が上がらなくなったそうである・・・。

 

 

 

 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま 熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま 黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま 牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

 

お題 【離縁】じゃなくて 【喧嘩】にしかならなかった・・・(敗因①)

チュホンじゃなくて ヨンス(二人の子)にすれば【子はかすがい】もクリアできてたのに~~~(敗因②)

 

・・・誰だよ 短いのしか書けないから超超短文を数更新すればいいかな?とか思ってた奴・・・。

(普通の超短文の長さじゃないか・・・)