現代から高麗へ移り住んだ。
普通ならば考えられないことだとは思う。
ほぼ同じ国土であるとはいえ そこには六百年以上の時の隔たりがあるから 彼女の常識はほとんど通用しないし 便利な家電製品はほぼすべて存在しない。


それでも、その不便を我慢しても ただ一人の男が欲しかったのだ。
この高麗という時代ですら 彼のような武骨で真っすぐな男は生きづらいから 彼を現代に連れて行くという選択肢はなかった。
まぁ 高麗末期から『チェ・ヨン将軍』がいなくなるなど 天門も許さないだろうが。


それでも 『彼と添い遂げたい』という彼女の切なる願いは 試練の先に受け入れられたようで 彼女の一年が彼の四年だったという 不思議なズレはありつつも 美時に二人は再会し 夫婦となった。
が、高麗末期という時代のせいか 試練は相変わらず存在する。


「・・・会いたいな」


開京のチェ家屋敷の奥の縁側で ウンスは一人 そう呟いた。
時代は 稀代の英雄である『チェ・ヨン』を 残念ながら放っておいてはくれない。
北の元との国境地帯であったり 沿岸に出没する倭寇であったり、本来ならば 四年ぶりに開京に戻り当分は都に留め置かれる筈の彼は その名声ゆえに地方からの名指しの懇願があるため ちっともその身を落ちつけられないのである。


まだ『新婚』なのに もう離れ離れになってしまった。
天門に隔たれていたときに比べれば 同じ空の下にいるだけでも 幸せではあるが、寂しいことには変わりはない。


内功なんて おとぎ話かと思われるような力が彼にあっても、残念ながら ファンタジーに出てくる『転移魔法』みたいな能力は存在しない。
飛行機も自動車もないから せいぜい馬を要所要所で取り替えて 早掛けしてくるのが精いっぱいだ。
そして せめて声だけと思っても 電話も使えない。
せいぜいが 早馬や鳥による文のやり取りで、それすらも 普段使いできるものではなく 地位の高い者が王にする定期連絡か よほどの急用である。
しかも ハングル文字がまだ発明されていないこの時代 使われているのは当然漢字で、ハングルで生まれ育ったウンスに 読める文字は少ないから文のやり取りすら難しいのだ。


「・・・あ~あ・・・」


ウンスが現代から高麗へとさらわれてくるその半年ほど前、彼女の親友イェジンが両親の仕事の赴任に合わせて日本に留学することになった。
高校大学と一緒で 何をするにも一緒だった二人だったが、唯一 専門として選んだ科が違ったことで 医学部卒業後から少しづつ離れてしまっていたが それでも大事な親友だった。


現代は便利な世界だったから、ビデオチャットで顔を見ながら話すことさえできる。
メールやSNSは お互いの時間が合わなくても 文章でやり取りできる。


それでも 直接会ってくだらない話を延々としていたかったウンスにとっては 不満だったが、今の状況を考えれば それだって相当に恵まれていたようだ。


同じ空の下にいるとはいえ 馬を飛ばしても4~5日はかかる距離。
声をやり取りするような環境は整っていない。
・・・考えないようにしているが ウンスの新婚の夫が駆り出されているのは 規模が小さいとはいえ命をやり取りする『戦』である。


『大将軍チェ・ヨン』が 最後の最後になるまで無敗を誇っていたことは 理系とはいえウンスも国史で学んでいる。
だからといって 彼がいつも 無傷でいたわけではないことも 妻であるウンスは己の目で見て知っているのだ。


自分の命ですら無頓着だったのだから チェ・ヨンが身体に傷を負うことに何ら思うところがないことは ウンスも知っていた。
二人の間に感情が生まれつつあった頃に 医者であるウンスが泣きながら怒り 必死に手当てするのを幾度か繰り返し、ようやく彼も『怪我を避ける努力』くらいはするようになった。
そして 夫婦となった今では 妻に文字通りの身体検査をされることもあり 妻のために ちゃんと自分の身体を大事にしているらしい。


ウンスが知っている国史通りにすべてが進むとは思えないけれど、それでも 『大将軍チェ・ヨン』が戦とも呼べないような小さな争いで命を落とすはずがない、ということは 少しは慰めになる。
会えなくて寂しくても 命のやり取りをしているはずの彼が心配だとしても 妻である彼女の元へと戻ってくるはずなのだから。


「・・・会いたい。せめても 声が聴きたい。・・・なのに」


高麗は不便だ。
分かっていることだけど。覚悟はしていたはずのことだけれど。


車なら 飛行機なら 数時間のはずの距離を 何日もかかって移動しなければならないから、用事自体はすぐ終わるものであっても 往復で相当の時間を必要とする。
ここが現代だったなら こんなに寂しく思うほどのことではないと分かっているだけに ウンスは不満が募ったのだ。
(もちろん頭の片隅で チェ・ヨンを現代に連れて行くことなどできないと分かってはいるのだが)


「・・・会いたい」


夫の帰りをただひたすらに祈って待っているなど 彼女の気性ではない。
ついていきたいのに 獰猛な兵のなかに紅一点として愛しい妻を連れて行くなど チェ・ヨンが頷くはずもなく 受け入れてはもらえないけれど・・・。


「会いたい! 会いたい! なんで現代じゃないの!? 声すら聴けない!」


八つ当たりだと分かっていても ふかふかの枕を(この時代は木の固い枕が一般的だが 彼女の特注である)ウンスは壁に投げつけた。
当然のように 壁に当たってから床に落ちるその枕を ただもう一度拾っては投げることを繰り返す。
その回数が十何度目かを数えたころ 彼女の白い手を 浅黒く日焼けした大きな手がやんわりと阻止した。


「どうしたのだ? 不機嫌なようだが」
「・・・貴方?」
「ああ。今戻った」
「・・・もう3日はかかるって 伝令に聞いてたわ」
「ああ、兵はそうだな。俺だけ早馬を駆って先に戻った」


ニヤリと悪戯っぽく唇の端だけを上げて笑うその姿は 間違いなくウンスが会いたくて会いたくてたまらなかった夫の姿だ。
持っていた枕を 壁ではなく放り上げて ウンスは夫の胸に勢いよく飛び込む。
高麗女性としてはズバぬけて高身長になってしまうウンスだったが 彼女の夫はそれに更に頭一つ大きい しかも武士であるため 難なく彼女を受け止めた。


「会いたかった!」
「ああ、俺もだ」
「寂しかった!」
「ああ、俺もだ」
「・・・愛してる」
「ああ、俺もだ」
「・・・ズルい 私ばっかり!」
「ズルくはないぞ? 本当に俺も同じ気持ちであるからな」
「・・・うん」
「で、先ほどは何を怒っていたのだ? イムジャ」


チェ・ヨンが目の前にいるというだけで 溜まっていた不満がどうでもよくなっていたウンスだったが 夫の言葉にようやく思い出したように 口を開いた。


「・・・不便だなって」
「そうであろうな。高麗は 天界に比べると 何もかもが足りないであろう」


何もかもがありそうなそんな世界を実際目にしたことがあるチェ・ヨンは 今は望んでここに留まってくれているとはいえ やはりさらってきた負い目を完全に消すことはできない。
ウンスの言葉が悪気がないと分かってはいても 傷つかないわけではなく どこか固い声になってしまう。


「ん~、まぁ 違うともいえないけど でもそうじゃなくて」
「イムジャ?」
「・・・馬より早い交通手段がないから 一度出かけるとどうしても何日もかかっちゃうし、せめて声だけでもって思っても ここではそんな手段ないし、文だって時間と手間かければできるけど 私漢字苦手だし。・・・でも 貴方が帰ってきてくれたから もういいの」
「・・・そうか」


夜の暗さとか 夏の暑さとか 冬の寒さとか、彼女が不便だと今まで言ったことは多いが、今回の不満は とりあえず彼が帰宅したことですべて解消したのだ、という。
それは 新婚の夫としては 『光栄』以外の何物でもないのかもしれない。


「・・・ねぇ貴方?」
「何だ?」
「兵は3日後に戻ってくるのよね?」
「ああ」
「じゃあ、それまでは貴方はお休み?」
「ああ」
「じゃあ、ずっと一緒にいられる?」
「我妻のお望みのままに」


ゆっくりと 二人の唇が近づき そして重なる。
3日間 屋敷どころか 部屋からも出なかった、という話もあるが 真相は本人たち以外は誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま 熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま 黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま 牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突発イチャこきニヤニヤ

お盆大変だった皆さまに 清涼剤を(なるのか?)

 

Pandoriaは 恒例一口大イカ天を50個揚げました~ゲロー

(一番食欲ある男子大学生いないっていうのにね・・・)

十数個残りましたが イカ天大王ことP兄が 『そうめんとかのトッピングにつけてもらうから持って帰る』といい出してました。

いやそれ 嫁の許可取ってから言えよ真顔

ついでに お中元のそうめんも持ってってもらった(笑)

今年暑いせいか お中元の麺が多かった~3軒は毎年くるけど 今年7軒くらいきたもん

あと 冷たくして食べる菓子も多かったですが、P父はシャーベットを冷蔵庫に入れても美味しくないと思うの・・・(見つけた分は移動したけど 何個か食べた気がする・・・)

 

そして36度とかいう 東北にあるまじき気温に 完全に敗北してバテております・・・

高温と 台風進路の方は お気をつけくださいませ