「・・・・・!!」


実際には言葉にはならなかったが、その時 高麗の医仙ことウンスの脳裏に浮かんだ言葉を文字にすれば 『え!? 怒ってる!? 何で!?』 であっただろう。
そしてそれは 妻である彼女だけではなく その周囲にいる人間ならば 誰もが察知したであろうほどの 分かりやすさで。


『怒れる 高麗の鬼神』


そんな状態の ウンスの夫チェ・ヨンに 物を申せる者などいない。
普段であれば その数少ない例外であるはずの ウンスですら無理なのだから。


「え!?? あ、ちょっと!!」


問答無用、とばかりに 彼女の腕を取り 半ば引きずるようにして連れ去っていくのを 典医寺の医員薬員たちは 黙って見送ることしか できなかった。
唯一 言葉にできないという点では皆と変わりはないが ある意味『チェ・ヨン慣れ』している トギ(たまたま薬草を納品しにきていたらしい)だけが 『あ~ 2~3日はウンス休みね。チェ家に泊めてくれるはずだったのに 私 どこに泊まればいいのかな』などと 手をバババと動かしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・貴方っ」


予想通りではあるものの 道中は完全に無言のまま チュホンに相乗りして、ウンスが連れてこられたのは 勿論彼らの住む屋敷だった。
つまりは 夫の機嫌は超芳しくないものの 夫婦そろっての帰宅、ということではある。


だが 本来ならば (多分)いい子で留守番していたはずの 我が子たちと 親子の時間を過ごせるはずなのだが、怒れる鬼神殿には そんな余裕などありはしない。
真っすぐ 屋敷の最奥である 主人夫婦の寝室へと 向かって連れてこられ、かなり乱雑に その(高麗ではありえないサイズの)寝台の上に ウンスは突き飛ばされた。


「え!??」


今回ばかりは ウンスには何かやらかした、という自覚はない。
だが 夫の怒りがあまりにもすごいので (それでも典医寺で怒鳴られることはなかったのだが) 怒鳴り声での説教を覚悟していたのに 彼女の夫の行動は 普段と違った。


「え、あの・・・」


怒り・・・というか 悋気にまかせて こんな風に強引に寝台に押し倒されて 求められることは ままある。
理不尽だと 思うときもあるけれど、結局のところ 高麗の常識を知らずに ウンスがはしたないと思われる行動をしてしまったり、彼女を愛するあまりに焼きもちを焼いたというのが理由であることがほとんど全部であるわけで ウンスとしても あまり怒りは持続できないのが事実だ。


だが。
普段と同じような行為になりそうなのは 間違いないと思われるのに、普段とは異なる行動をされた場合 雄弁なはずのウンスでも言葉を紡ぐことはできなかった。


「・・・・・」


ウンスを押し倒す前に 彼が自分の服を脱ぎ捨てるなんて 思いもしなかったのだ。


「・・・・・」


結婚して数年、子供だっている。
夫の身体など 幾度だって見ている。
なのに ウンスは 寝台の上でまるで固まってしまったかのように 動けなかった。


普段 幾度となく見ている夫の身体ではあるが それは極限にまで落とされた光源の元でが常である。
まだ陽が高く 蝋燭など必要としない 時間帯に、淡々と身に纏う服を脱ぐチェ・ヨンの姿は 一見何の意図もない至極当然の真っ新なものに見えて 実はそうではないのは ウンスには分かった。


身に纏うすべてのものを床に落とした彼が 顔を上げて妻であるウンスと視線を合わせた瞬間に その瞳に明らかな欲望を宿らせたのだから。


「・・・・・!!」


一糸まとわぬ姿なのはチェ・ヨンで ウンスは全く衣が乱れていない。
だが その瞬間から 逆の立場にしか ウンスは考えられなかった。
捕食者を目の前にした 非捕食者、とでも言えばいいのだろうか。


「・・・イムジャ」
「な、なぁに?」


ここまでずっと無言だったチェ・ヨンが やっと彼女のことを呼んだ。
『イムジャ』という呼び名は ウンスにしてみれば時代がかった目の前の相手に呼びかける古臭い呼び名にすぎないと思っていたのだが、彼がそれを自分にしか使わないと知ってからは 特別なものになった。


「・・・俺に 隠していることは?」
「え? な、ないけど?」
「まことか?」
「ええ! 本当よ」
「・・・そうか」


キラン、と目が光ったような気がしたのは ウンスの気のせいだろうか?
寝台の絹のシーツの上を滑りながら どうにかして逃げようと試みはしたが、お世辞にも運動神経がよろしいとは言えないウンスが 高麗最強の武士から逃げられるはずもない。
しかも相手は全裸で 押しのけるために衣を掴むことすらできないのだ。


「・・・・・!!」


抗議の言葉も 悲鳴さえも 夫のややぽってりした唇に飲み込まれる。
そのまま 簡単に欲望の火をつけられてしまったウンスの身体は 文字通り夫チェ・ヨンに貪られたのだった・・・。

 

 

 

 

 

 


「・・・え? 貴方に秘密? 本当にないわよ?」
「・・・そうか・・・」


幾度目かの高みの後で ようやくウンスは夫から解放されたのだったが、疲れ切ってすぐにも眠りに落ちそうな彼女に チェ・ヨンが再度『隠し事はないか』と問うたのだ。


「・・・・・」


ウンスはそのまま眠りに落ちたのだが 夫はその後もジッと彼女を見つめていたらしい。
さすがにそれは 彼女の知るところではなかったのだが・・・。


結局 真相が分かったのは それから数日後のことだった。


「・・・チュンソクの嫁が 懐妊だと・・・?」
「ええ! 多分ペ家念願の女の子よ! 楽しみね!」
「あ、・・・ああ・・・」


女の子と男の子どちらにも恵まれているチェ家とは異なり、チュンソクの家では男の子ばかり3人だった。
戦が絶えない世のため 男の子のほうが喜ばれるのが普通ではあるが、ペ家では女の子が欲しかったらしく ついに4人目にして やっと授かった、と大はしゃぎなのだ。


ウンスも チュンソク嫁のソンヨンとは 彼女が武閣氏をしていた時からの知り合い(つまりは最初に高麗に連れてこられたときのことだ)であるため 主治医としてずっと相談にも乗っていたし 我がことのように喜んでいる。
だが 彼女の夫は それを聞いても 元々顔の筋肉が動きにくいのを加味しても 若干反応がおかしい。


「貴方・・・?」
「・・・数日前 イムジャが懐妊の話をしていたのを 小耳にはさんだ」
「え? 聞いてたの!? やだ、チュンソクさんよりも早く聞いちゃったとか!?」
「・・・イムジャの 話かと・・・」
「え!? 私!? 私はまだよ!」
「・・・そうか・・・」


チェ・ヨンが彼らしくなく歯切れ悪くボソボソ言っているのを ウンスはハッとして睨んだ。


「もしかして! 数日前って あれ!??」
「・・・ああ」
「『隠し事はないか』って」
「・・・ああ」
「・・・あのねぇ! 私が懐妊したら 貴方に言わないわけないでしょ!?? 第一 懐妊してたとしたら あんな激しくされたんじゃ どうなってたか・・・!!」
「・・・だから 幾度も聞いたのだ」
「私が意味わかってないんなら あれを『聞いた』なんて言えない!!」
「・・・すまぬ・・・」


さすがに自分に分が悪いことは分かっているのだろう、チェ・ヨンが素直に謝罪する。
高麗の鬼神と呼ばれる彼が そんな風に素直に謝罪する人物など 非常に数少なく、ウンスがごく一部に『猛獣遣い』と呼ばれる所以でもある。


「・・・それにしても チュンソクに娘か」
「ずっと欲しがっていたもの。楽しみね」


懐妊すると出る『滑脈』はすぐに覚えたのだが 胎児が男女どちらかというのは エコーがない高麗ではウンスには分からない。
チュンソクの妻ソンヨンの懐妊の兆候はすぐにウンスにも分かったのだが どうしても性別で違うといわれている脈が分からずに ソンヨンを典医寺へ招き ナム侍医に診てもらったのだ。
(ちなみにナム侍医は 妊娠の一時期しか判別できないと言われる男女を ウンスが知る限り完璧に当てているのである)
もしかしたら それで二人で喜んでいるところを 誰かに見られ ウンスが懐妊かと(でも夫チェ・ヨンには報告しない)思ったのかもしれない。


・・・そんなはずないのに。


今二人には 可愛い子供たちが3人いる。
四人目は 一人だけ離れて生まれてくると知っているのだから この時期ではないのは チェ・ヨンだって知っているはずなのに。


出産とは不思議なものだ。
痛くてたまらないし この時代命がけですらあるのに こうして身近に懐妊する女人がいると 『自分も・・・』と思ってしまう。
勿論 チェ・ヨンの子供であることが 大前提なのだが。


・・・この時に宿った チュンソクの娘のチュンヒが この十数年後にチェ家の長男ウォンの嫁になるとは もちろん誰も知るわけがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま 熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま 黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま 牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書きかけの話はいくつかあるのですが 筆というか指が進まず(PCだからw) 急きょ突発ネタ。

ウンスさん 旦那の全裸に圧倒された模様(たぶんある一部が元気だったんだと思うw)

無表情大男が そこだけ元気だったら 怖いよ(;・∀・)

 

 

久々投稿がコレか、というセルフツッコミニヤニヤ