そういえば 昔、あれはいつだったか・・・、確か 再会したての頃だったと思うけれど。
『兵の階級があがるほどに 鎧が派手になる』なんて言ってたことがある。
『あれでは 狙ってくれと言っているようなものだ』と 相変わらず眉間にしわを寄せながら言ってた記憶がある。
だから 自分は少しでも目立たないように 王様の前とかの正式な式典以外では 二等兵の鎧を身に着けているんだ、って。
・・・でも 王直轄の高麗きってのエリート部隊である 麒麟文様の近衛隊の鎧だったけれどね。


でも そういうのって 男だけのものじゃない気がする。
女だって 目には見えなくても 重圧の衣を身に纏っているもの。


坤成殿を辞すときには 『王妃様の主治医』で『王妃様の義姉』である衣を。
皇宮を辞すときには 『天界の医員』で『医仙』である衣を。
屋敷に戻ってからは 『子供たちの母親』で『屋敷の奥方』である衣を。


それぞれは 嫌だなんて思ったことがない、大切な『わたし』という存在を現す肩書だけれど 知らず知らずのうちに 肩がこるような感じで気を張っているよう。


じゃあ、今は?


ふふふ、と 一人で小さく笑いながら ウンスは ちゃぷん、と 浴槽に深く身を沈めた。


文字通り 一糸まとわぬ自分は 一体なにものなんだろうか? と。


以前は そのことがとても恐ろしいものに感じていた気がする。
『何者でもない ユ・ウンス』は 価値がないただの女だと 思っていたからだろう。


今だって 自信満々とは言えないが、高麗で過ごしてきた月日の中で 少しづつ 自信らしきものが 芽生えてきたのかもしれない。
『何者でもない ただの ユ・ウンス』を 『自分だけのために使える自由な時間』だと 思える程度には。


優秀な医員でも 王妃様の義姉でもなく、子供たちはもう寝かしつけたし 奥方としての差配もすでに済んでいる。
まぁ 唯一 夫であるチェ・ヨンは 相変わらずの会議だとかで 遅くなると連絡が入っているので まだ帰宅していないのだが、帰り次第に 胃に重くはない食事を出すように指示してあるし 彼女の『奥方』としての仕事は今日はもう終わっている。
ゆったりと 一人で長風呂を楽しむことができるのだ。


ウンスは かつて天界において その専門を 胸部外科から形成外科に変更したのだが、その時に ついでとばかりに 脇や足の永久脱毛を社員割で済ませている。
おかげで 『夫にムダ毛処理を見られたくない』という 世の奥方たちの切実な思いは 彼女にはないのだが、だからといって (夫が開京にいる場合)毎回のように風呂の時間を邪魔されたいわけではない。
彼女の夫は 妻が一糸まとわぬ姿で入浴していることを知っているため(実は高麗では 風呂でも下着を着用して入ることが一般的であることを 彼女は知らない。 数回夫と温泉宿に泊まったことはあるのだが それはそのときだけだと思っているらしかった。 そして 夫としても 妻が全裸で入浴することは 使用人に見られなければ特に問題はないわけで それを否定する気はないようだ) 彼女が入浴する場合は 風呂場より目で見える場所には 夫以外の立ち入りは禁止されている。


ところが 毎回のように夫に長湯を妨害されることを嫌ったウンスによって チェ・ヨンは幾度か『ウンス入浴中の立ち入り禁止』をくらっているのだが、どうやら その場合 じっくり長湯して機嫌がいいウンスが その後の『夫婦の時間』に積極的であるということを 遅ればせながら認識したらしく、最近はウンスの長湯を好きにさせておく傾向にあるようだ。


というわけで ウンスは心置きなく長湯ができる機会が 最近はとても増えたのである。


「・・・長湯であったな」
「え? 帰ってたの? 貴方」
「ああ」
「食事は?」
「軽く」
「あら、じゃあ お風呂どうぞ。まだ温かいわよ」
「・・・ウンス」


ウンスが長湯のあとで 夫婦の寝室へと戻ると、いつのまにか帰宅していたらしいチェ・ヨンが 寝台の上でつまらなそうに本をパラパラとめくっていた。
以前ならば 確実に 長湯中のウンスに突撃していただろうが、彼にしては珍しく『待て』ができたらしい。


妻の名を呼び 寝台へと引き寄せようとしたチェ・ヨンに ウンスは(やはり長湯のおかげで上機嫌らしく)クスクスと笑って言った。


「お風呂、どうぞ」
「・・・後でで構わぬ」
「今なら温かいもの。湯を足す必要ないもの。それに サッパリするわよ? この時期は汗をかきやすいから」
「・・・・・」


遠回しに『汗臭いわよ』と言いたいウンスの思いが通じたのか(チェ・ヨンは武官であるので 汗をかくこと自体は当然だとは思うのだが) チェ・ヨンはそそくさと風呂へと向かった。
ウンスに『寝るなよ』とくぎを刺して。


ウンスは そんなチェ・ヨンの変わらぬ様子に 再びクスクスと笑った。
きっと 水浴び程のスピードで彼は風呂からあがってくるのだろう、と思いながら・・・。


「・・・如何したのだ?」
「ちょっとね。お風呂で考えていたことを思い出して」


ウンスが思ったのよりは 少しだけ時間が長く(ほのかにウンスお手製石鹸の香がしたので 一応お湯をかぶる以外の動作はあったようだ)湯を使ったチェ・ヨンは 寝台でクスクス笑っている妻にそう尋ねた。
ウンスは 先ほど長湯しながら考えていた話を 夫の濡れた髪を手ぬぐいで拭いながら 教える。


「皇宮を出ると 『王妃様の義姉』とか『医仙』の肩書は脱げるでしょう? この屋敷に戻ってからも 子供たちを寝かしつけたら『母親』の肩書は終わりだし 居間から寝室に来る時点で『奥方』でもなくなる。 お風呂に入っている私は 何者でもない ただのユ・ウンスなんだな~って」
「・・・それは」
「普段の自分に 重圧があるわけじゃないわよ? お役目も母親業も奥方業も 皆大事。 前はね むしろ『何者でもないただのユ・ウンス』の方が嫌だったのよ。誰からも必要とされてない気がしてね」
「そのようなこと あるわけがない」
「うん。いまはちゃんと分かってるわ。 そう思えるようになったのは 貴方のおかげ」
「・・・俺の?」
「ええ。 だって さっき『何者でもないただのユ・ウンス』だと思ってた私に 最後まで残ってた肩書があったって 今思い出したんだもの。『チェ・ヨンの女』ってね」
「・・・それは 確かに 最後まで残るな。俺が『ユ・ウンスの男』であるのと 同じように」
「うふふ。そうでしょ?」


そう艶やかに微笑むウンスは どれほどの年月が経とうとも チェ・ヨンを魅了したあの頃の姿と変わりがない。
ウンスは時折 時が経つと色あせてしまう 容姿や想いを憂いたりするのだが、その心配は全くないとチェ・ヨンは思っている。
それどころか 時が経つほどに 己の想いは強くなっている気がしてならない。


「・・・・・」


ただの『男』と『女』に戻った二人には もう言葉は必要がない。
ただ熱い思いをその瞳に宿し ゆっくりと唇を重ねていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま 熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま 黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま 牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艶シーンを書けないので(気力体力時間不足) せめてイチャラブグラサン

なにがすごいって 最初から最後まで ウンスさん服着てない(笑)

(風呂から部屋までは バスローブみたいな感じを想像してくださいw ←着てるやん)

 

地味に 悩んで時間がかかったのは 『チェ・ヨンの女』というフレーズ。

ウンスさんなら 『物扱いっぽくて嫌』って言いそうだったのですが、『妻』だと 母であり奥方であるのと切り離しにくいな~と思い 女で言い切ってみました。

まぁ ウンスさんが自分で言う分にはいいだろう滝汗