「えええ~~~!!」
「えええ~~~」


子供の成長は早い。
高麗の女性としては かなりの長身であるウンスの背丈を いつの間にか抜いたウォンだったが、中身は相変わらずのようである。
拗ねたように唇を尖らせて不満げにうめいているウォンの口調を 絶賛真似っこ中の幼児ヨンスが真似して こちらは楽しそうに笑っていた。


「本気ですか!? 母上!」
「もちろん本気よ」
「ほんきほんき~」


可愛い仕草ではあるが 真似っこ幼児がいることで 全く親子の会話が進まないため、ウンスが目で合図すると ヒソンが(ウンス仕込みの)クールな仕草で肩をすくめて ヨンスを連れだしてくれた。
(幼い弟をお菓子で釣ったのだが 自分も食べたかったからに違いない)


「えええ~~~ 母上ぇ~~」
「本気だってば。父様も承知してるわよ?」
「え~~~ 父上も~~?」


『近衛隊員になりたい』と ウォンは早いうちから心に決め 両親にも宣言していた。
それは 『チェ・ヨン』という高麗最強の武士を父親に持つ 長男としての義務感からではなく、ただ純粋に父親に憧れたからだ。
父チェ・ヨンは『そうか』と一言言っただけで納得してくれたようだったが 母ウンスは違ったらしい。


「科挙を受けて合格すること。そしたら近衛隊の入隊試験を受けてもいいわ」


この時代 武官になるための『武科挙』は存在せず、文官になるための『科挙』のみが存在していた。
近衛隊に入るための入隊試験に備え ウォンは(もちろん父チェ・ヨンの口利きではあるが)近衛隊の鍛錬に参加させてもらっており 『受ければ当然受かる』とお墨付きをもらっている。
母ウンスの許可さえ得れば 次の入隊試験を受けるつもりだったのだが・・・。


「い、今から科挙を!?」


ウォンが入りたいのは近衛隊である。
武官になりたいのに 文官になるための試験を受けて合格しなければならない、というのは 母ウンスの意図を疑うのだが・・・。


「だって、ウォン 貴方、成均館に通っているんだから 科挙くらい楽勝のはずでしょう?」
「・・・そ、それは・・・」


確かに ウォンは貴族の子弟が通う文官養成所とも言える成均館に通っている。
武官の子であり 自身も武官志望のウォンには不必要に思われたのだが、武官である父チェ・ヨンも幼い頃には通っていたらしいし 元々チェ家は代々文官の家系である。
成均館に通っていてもおかしくはないのだが 成均館に通っているからといって 科挙が楽勝だとは言えないのだ(ウォンは決して落第生ではないのだが)。


「・・・母上、何を企んでるのですか?」
「嫌ね 人聞きの悪い。 成均館でも そこそこ優秀なんでしょう? なら合格できるはず」
「ですが 文官になる気がないのに 科挙をわざわざ受けなくとも」
「チェ家は元々文官の家なのだから 受けたっていいじゃないの」
「母上・・・」


ウォンは 母ウンスが決して口には出さなかったけれど 自分が文官の道を選ぶことを願っていたことに 気づいてはいた。
今回の科挙の話も 『合格したなら文官に』と言いたいのだろう。
だが ウォン自身の望みは あくまで近衛隊であり 母の願いとはいえ 聞き入れることはできなかった。


「受かったからって 文官になれ、なんて言わないわ。 ただ ウォンが文官にもなれる実力があることを 証明したいだけ」
「誰かに、ですか?」
「誰かって 特定の人じゃないけど。 まぁ 私が高麗の生まれじゃないからって ウォンまで侮られるのが嫌なのかもしれないわね・・・」
「・・・・・」


母ウンスの言うことに 全く心当たりがないわけではないウォンとしては 黙るしかなかった。
彼や 姉妹であるミギョン・ヒソンは それぞれが稽古している先で 兄弟弟子にあたる者に そのようなことを言われたことが何回もあるのだ。
大抵は 自分に敵わない者たちの 負け犬の遠吠えだと 我慢して大事にしないのだが、全く母ウンスに伝わっていないわけではなかったようだ。


「・・・分かりました。科挙を受ければいいんでしょう? 母上」
「受けるだけでは駄目よ? ちゃんと合格してよね?」
「それは・・・そうですけど、母上」
「なぁに?」
「・・・父上のような成績は無理ですよ?」
「あははは! そりゃそうよ! さすがにそこまでは期待してないわ!」
「・・・その言い方もどうかと思うがな、イムジャ」
「あ、貴方! おかえりなさい」
「おかえりなさい 父上」


やや不毛な 母と息子のやり取りに割って入ったのは 一家の父チェ・ヨンだった。
ちなみに 『父上のような成績』というのは 過去に 科挙の問題を作った重臣イ・ジェヒョンが 王にその問題を献上した折、王が戯れにチェ・ヨンに対して『解いてみよ』と命じたため チェ・ヨンが解いたところ イ・ジェヒョンが自身の作った模範解答よりも 素晴らしい出来だ、と悔しそうに認めたために 以来 戦などでで開京にいないときを除き チェ・ヨンにも解かせて模範解答とする、ということになっていることを 指している。
ウォンは それなりに優等生ではあるが 『模範解答』と比較されては困るのだ。
(とはいえ ここもハッキリと『そこまで期待してない』と言われるのも 複雑らしい)


一家の主が帰宅したことにより 母ウンスの関心がウォンから夫に逸れたことは この場合は歓迎すべきだと思い ウォンはそろそろと部屋を退出しようとしたのだが、ほとんどの意識は妻に向けていても それを見逃すチェ・ヨンではない。


「ウォン、話がある故 居間で待ってろ。風呂から上がったら行く」
「・・・はい 父上」


怖い父親を持つ息子としては そう答えるしかなかったようである。


「母上に 科挙を受けろと言われただろう?」
「はい」
「お前が 優秀な息子だと 証明したかったのだろうな。 ウンスの医術はすばらしいが高麗にはないものであるし 本人は話す分には不自由はないが 漢字が苦手ゆえ 侮られることも多かったのだ」
「・・・そうだったんですか」
「あとは 武官には怪我がつきものゆえ もし武官を続けられなくなるほどの怪我をしたとしても 科挙に合格してあれば、と思ったのだろう」
「・・・母上らしいや」
「ああ、そうだな」


基本は前向きで楽天家でありながらも 心配性な一面を持つ母ウンスのことだから、言われれば そうだろうな、とウォンにも理解できた。


「父上は・・・ もう科挙の問題は 解かれたのですか?」
「お前、俺が そんなことを口外すると思っているのか?」
「いえ ただ もう問題を見られたのかだけ お聞きしたかっただけで 父上が内容を漏らすわけがないことは 分かってますよ」
「今年は解いておらぬ。まぁ お前が受けるのだから それでいい」


チェ・ヨンという人物の性格を知るものは 彼が不正とは全く関わりがないと承知しているだろうが、息子が受ける科挙の問題を 事前に知っているのは 好ましいことではないだろう。
痛くもない腹を探られるのは不快であるし チェ・ヨンは 今年は彼に問題を解けとは言われなかったことに 納得したように頷いた。


「王命により 当日 会場の警備は近衛隊が担うことになった。 挙動不審な真似はするなよ」
「えええ~~~! そんなぁ」


科挙を受けろと言われただけで相当なプレッシャーなのに 近衛隊員たちが会場にいるとあっては ウォンに対する嫌がらせのような感じである。
ウォンは ガックリと首を垂れたのだった・・・。


しかし 残念ながら これだけでは済まなかったのだ。


勘のいいウォンだったら平時なら気づいただろうが、さすがの彼も科挙のことで頭がいっぱいだったのだろうか?
『科挙の警備が近衛隊』という意味は 当日王様が直々に顔を出すということを指しており、王の警護として同席していたチェ・ヨンに 『其方もここで受けるがよい』と わざわざウォンの隣で試験を受けさせたのだ。
ウォンは とても顔を上げる勇気はなかったのだが、隣の席から 父チェ・ヨンの不機嫌オーラを感じながら試験を受ける、という 非常につらい目に遭ったらしい。


それでも 主席とはいかなかったが 優秀な成績で合格したのだから、チェ・ウォンの優秀さは 本物であり 母ウンスも鼻高々であったらしい。


そして 不機嫌全開のままであっても 『非の打ち所がない模範解答』を提出したチェ・ヨンは 褒美代わりに数日の休暇(奥方であるウンスの分も)を勝ち取ったようで 奥方と閨から出てこなかった、ということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま  熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま  黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま  ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま  牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Pandoriaの甥っ子R君大学合格祈念(笑) ウォン君受験編(笑)

圧迫面接も同時に進行されているのに よく受かったな笑い泣き

(顔を上げなかったことが勝因だと 脳内でウォンは言っているw)

 

 

ちなみに 先日の 『元上司のオバサマ送別会』は Mさんの要求が通り 高級フレンチ店になりました・・・。でも コース料金は下げてもらった(7千円→5千円)真顔

(行くのは来月ですけどね・・・)