R5予備論文の行政法の特徴
行政法は原告適格、狭義の訴えの利益、裁量と典型的な問題だと思います。できる人はかなりの精度で論述してくる難易度だと考えます。ひとつ本問の特殊性について指摘すると、それは一般廃棄物処理計画について問題文の論述が多いという点です。問題文中の6~7割程度に、一般廃棄物処理計画についての記載であることから、訴えの利益や裁量の点について、これらの事実をうまく論述に盛り込むと高得点となる答案になると考えます。
あと、浄化槽ってなんですか。という問いもあると思います。
浄化槽とは、下水道に接続できない世帯が設ける、し尿等を処理する施設です。
都会だと下水道の普及率が高くほぼ100%ですが、少し田舎だったり、都会でも自然流下できない勾配があるような地域だと浄化槽を設置する必要性が出てきます。
この浄化槽は、人間が出すし尿や糞便などを生物処理する装置です。ただ、一定期間使用していると、浄化槽の中にスカムといって汚泥がたまってしまい、それを回収する必要があります。一般家庭に設置している浄化槽だと、年に1回程度の浄化槽汚泥の回収が必要になってきます。本問は、この浄化槽汚泥の収集運搬業の許可をDが新たに受けたことが、既存業者Cの利益を侵害しないか検討することが必要になってきます。
また、上記のような浄化槽汚泥に関する基礎知識があると、人口や世帯数が増えないにもかかわらず、浄化槽汚泥の発生量や処理量が増えるのはおかしいと気づくと思います。
設問1
l 設問1(1)
- Cに本件許可を取り消す「法律上の利益」(行訴法9条1項)が認められるかの指摘
- 「法律上の利益」の規範・論証の正確性
- Cの利益が既存業者の営業利益であることの指摘。問題文中の事実から適切に事実を引用して認定する。
- CはすでにA市内において、浄化槽汚泥の収集運搬業の許可(廃掃法7条1項)の許可を受けていることの指摘
- A市内でBCの二つの業者でA市内の浄化槽汚泥の収集運搬業を行っており、そこに新規業者Dが参入すると、A市内の浄化槽汚泥の収集運搬を3者で行われなければならならず、既存業者Bの営業利益が減少する旨の指摘。
- 許可業者の濫立等によって事業の適正な運営が害されることのないよう、一般廃棄物処理業の需給状況の調整が図られる仕組みが設けられているとの指摘(平成26年1月18日、最高裁判決、一般廃棄物処理業許可取消等、損害賠償事件参照)
- 廃掃法7条5項3号で法律上の利益を検討している答案があるが、この要件での検討は営業上の利益を個別的利益として保護する趣旨を含むものではないと考える。理由として、上記の要件は廃掃法の許可業者が適切に事業を営むことができるかどうかを判断するものであり、既存業者の営業利益を保護するという趣旨を読み取ることができないから。上記判例もその点を指摘している。
l 設問1(2)
- 狭義の訴えの利益(9条1項かっこ書き)が問題となることの指摘
- 狭義の訴えの利益の定義の正確性
- Dに対して更新処分がなされている。廃掃法7条2項、3項の指摘。
- 更新処分がなされても、DはなおもA市内で浄化槽汚泥の収集運搬業を営むことができるため、これにより既存業者であるCの利益はいまだ害されていることの指摘。
設問2
- 廃掃法7条1項の一般廃棄物の収取運搬業の許可が要件裁量に属すること。A市長の専門技術的な判断に属すること。
- 廃掃法7条5項2号
- 一般廃棄物処理計画の策定がA市長の裁量に属すること。
- ただし、一般廃棄物処理計画は人口動態や世帯数により、浄化槽汚泥の量は推計できる。そのため、このような人口動態や世帯数を無視することはできず、その計画の策定に裁量が限定されていること、
- 旧計画では将来の人口及び総世帯数が減少すると予想しているが、新計画では浄化槽の設置件数が増加し、浄化槽汚泥の発生量及び処理量が大幅な増加が見込まれると予想。通常、人口や総世帯数が減少するのであれば、浄化槽の設置基数は減少するはず。それにも関わらず、新計画で上記のような記載をしたことは考慮不尽が認められる。
- 上記計画は裁量の逸脱濫用があるため、それに基づく廃掃法7条5項2号において取消事由(行訴法30条)あり。
- 廃掃法7条5項3号
- Dが一般廃棄物処理業に従事した経験はなかった。
- D単独の社屋等は存在しない。
- 一般廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能がない(規則2条の2第1項2号イ)
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- Bが保有している運搬車をDも使用しうることが定められていた(D単独の運搬車を所有していない。)
- 運搬車を有しない(規則2条の2第1号イ)
- Bが保有している運搬車をDも使用しうることが定められていた(D単独の運搬車を所有していない。)
試験本番での解いた感想
解答筋を適示すると上記のようになると考えます。
しかし、試験本番でこれらを正確に適示し、法的に評価することは結構至難の業です。私は試験本番で行政法→憲法と解きましたが、自分の再現でも75分程度かかっており、最後の廃掃法7条5項3号の要件の検討がかなり薄くなっています。つまり、時間がないということです。論文本試験で緊張した中で一発目も科目だったこともあり、自分としても慎重に問題を解きすぎた可能性があります。
そのため、憲法→行政法と解いている人は、時間切れの人など結構いることも想定されるため、法律上の利益や狭義の訴えの利益など正確に規範を適示し、問題文中の事情を拾って論述できればいい評価はくるのではないかと考えます。