あまりにも病室ですることがない。テレビを見るのもまだ辛かったので、ベッドでボケーとするだけの毎日を送っていた。

ひたすらスマホに入っている音楽を聴くだけの生活。ラブソングを聴くのは結構しんどかったけど、家に戻ってWifiの環境じゃないと曲の入れ替えもできない。

こんなことならもっと曲ぶち込んでおくんだった、と毎日のように悔やんだ。

 

「buck number」というバンドの曲しか聴ける状態になってなかったので、ひたすら聴いた。あまりにも聴きすぎて最終的に「あ、ここで息つぎしてるんだ」とか考えるようになってしまった。

 

先生から転院の話があった週末、やっぱりヒマで爆発しそうだったので看護師さんにお願いして休憩室なら行っても良いという許可をもらった。

親に車イスを押してもらって病棟の角にある休憩室に向かう。そこには何組か先客がいて、入院患者はあの人とあの人だな、と一発でわかった。自分もその一人ではあるけど。

最初に入院をしたとき、自分は耳鼻科のベッドがなかったので呼吸器内科という病棟に入らせてもらった。しかしその日のうちに脳梗塞ということがわかり、神経内科に担当が移ったら、そこもベッドがいっぱいらしい。結局ベッドが空いたら移動ということになっていたけど、転院するまでそのような兆候はまったくなかった。

呼吸器内科の患者さんは基本的に一人で歩ける人がほとんどだから(しかも患者さんは年配が多い)車イスで登場した一人の若者に、他の患者の家族は「何があったんだあいつ」という容赦ない視線を向けてくる。

 

きっと後から入ってきた患者さんも不思議に思ってたと思う。4人部屋で他の3人は一人の先生が声をかけて診察してるのに、自分だけスルーで帰っていくのだ。

そして後から入ってきた別の先生に「まあ脳梗塞ですと…」なんて話をしていて

「え?あいつ脳梗塞なの」っていう感じだったと思う。一人でトイレにも行けないし。それに一緒の部屋だった人は検査入院が多くて、あっという間に退院してしまう。

自分より年配の人が検査入院とはいえ、すごいサイクルで入退院を繰り返す光景に、少なからずモヤモヤした気持ちを抱いたことは否めない。

 

さて、休憩室からは敷地内にあるヘリポートが見えた。入院中にも何回か館内放送でヘリの到着を知らせる案内があったが、いざ上から見下ろすと想像以上にデカい。

でも広い景色を見たのは久しぶりで、綺麗だなと思っていたら、突然脳がパニックになってしまった。

グラっと脳が揺さぶられる。まずい。吐く。車イスに座っているから、倒れる心配はないのだけど、必死に深呼吸して「もういいや、もどして」と車イスの向きを変えてもらった。

 

飲み物は挑戦、無糖のカフェオレ。いわゆるコーヒー飲料。

一口飲んでびっくりした。甘い!え?無糖だよね。うん、間違ってない。

家族にも飲ませた「うん、無糖」

やっぱそうか。

味覚が鋭敏になってるようだ。

オレは海原雄山。新しい楽しみを見つけた。