「どうですか?調子は」

「…まぁまぁですね。よくわかりません笑」

「まぁそうですよね。あ、点滴終わったんですね。もう外しちゃいましょうか」

「え、いいんですか?」

「はい、もういりません」

そういうもんなのか。自分は入院期間中はずっと点滴入りっぱなしのイメージだったので、嬉しいやら、拍子抜けしたやら、という感じだった。

これは自分が思っているよりも早く退院できるのかもしれない。そんな淡い期待を持ってしまった。

 

点滴が取れたところで、先生は感覚の検査をしたいと言ってきた。なんだ?痛いのか?と思ったが、どうやらその通り。

温痛覚のレベルを確かめるための検査だった。短い、すり棒みたいな器具を取り出すと、先生は顔からつま先まで、あらゆる場所を左右に分けて押し始めた。

「熱いですか」

または

「冷たいですか」

そして

「痛いですか」

なんだろう。左側は全く何も感じない。触られているのはわかる。でもそこから先の感覚が、ない。自分は怖くなって初めは「少しあります」とか言っていた。

でも正直に言わないと意味がないなと思って「ほとんどわかりません」と言い直した。

しばらくすると先生は「わかりました」と言って器具をしまった。

「大体予想通りですね」

「予想通り?」

「はい。今回の場合、顔の右半分、肩から下の左半身に感覚の麻痺が出ることが予想されていました。人によって個人差がありますので、なんとも言えないのですが、おおむね病変の通りですね」

そういえば、脳の病気になると病変とは反対側に麻痺が出るのはなんとなく知っていた。

自分もその中の一人に仲間入りしたってわけか。

次に足の動き、手の動きを確認された。

「上から抑えてますので、足を上げてもらってもいいですか」

自分は精一杯足を振り上げた。

「はい、次は右足・・・はい、わかりました」

手帳を取り出すと先生はメモを始めた。

「処方された薬はもう飲みましたよね?」

「はい」

「食事は」

「少しだけ」

「飲み込みずらいとかは?」

「少し…ですかね。でも気になるほどでは」

「そうなんですね。それはよかった。嚥下障害といって、ノドに障害が出ることがとても多いんです。薬に関してはとりあえず脳梗塞の治療に一般的な薬を処方しています。脳梗塞の場合、初めは無理に血圧のコントロールをしません。今は体が頑張って、詰まってしまった分の血流を取り戻そうとして血圧が高くなっているんですよね。まぁあなたの場合、もともとの血圧もだいぶ高かったと予想されますが…健康診断とかありましたよね?そのときはどうですか?」

「まぁ、少し高いよという話は…ありましたが」

「特に治療や病院に行っていたわけでは…」

「ないです」

「うん、わかりました。病気のことってご両親から詳しく聞きましたか?どこが詰まってとかは」

「まぁ、脳梗塞でちょっと変わった場所がということは」

「あ、そうなんですね」

「詳しく、自分も聞いてもいいですか?今ここで」

「あ、いいですよ、それではご説明しますね」