男性の声が聞こえた。自分はしんどいので目をつむったままだ。
父親が手続きのために部屋を出た。
しばらくすると、さっきの声の男性が部屋にやってきた。
目を開けてずいぶん若い人だなと思っていたらタメ口で話しかけてきた。
「こんにちはぁ〜担当です。よろしくお願いしまぁす」
え、なに、ゲイ?とっさに思った。口にするのは必死に堪えた。
「それではいくつか質問をしていきますのでね。答えてくださぁい」
やだ、なに。拒否反応が不自然な笑いになって出てしまう。
普段の生活のことを聞かれた。なんと彼はタメだった。まじかよ。
「彼女いんの?」
「ええまぁ」
「なにそれ!オレ知ってんだからね、君に彼女いること」
「え?なんで?」
「え、さっきお父さんがゲロッた」
まじか。
彼が部屋を出ると、変わりに女性看護師が薬を持って入ってきた。
「それでは点滴を行います」
ここは点滴がなんか機械につながれて出てくる。ハイテクだなぁと思いながら腕を見つめる。でもカチャカチャ言ってて少しうるさい。
自分しか患者がいないので、人の出入りもあまりない。入が来るときは確実に
自分の用事だ。
耳鼻科の先生も来た。そのあと神経内科の先生も来て、とりあえずまだ病気が確定してないから、ということで同時進行で半分担当みたいな形になった。
MRIの検査が呼ばれるまですごく長く感じた。もしかしたら今日中に呼ばれないんじゃないかとも思った。
夕方4時過ぎくらいだろうか。呼ばれた。初めてのMRIで緊張してしまう。
でもやるしかない。点滴も一緒に入室。
「それでは最後に造影剤を入れて撮影しますので」
え、またなんか入れるの!どこから注入されるのか心配だったが、もうやるしかない。2回目。
頭を固定される。
「動かないでくださいね」
しかししゃっくり出たらどうしよう。もうなるようになれ。
撮影の時間がすごく長く感じた。それでも20分くらいはじっとしていた。最後の5分はしゃっくりが止まらなくてどうしようもなかった。ダメなら撮り直しになるだろうと思ったので、気にしないことにした。失礼な患者だ。
造影剤も点滴の管から入ったので、痛くもなんともなかった。これはほっとした。
一度寝ると、起き上がるのが困難。それに検査台にはつかまるところがないので、
連れてきてもらった担当者に、おしりをガッとつかまれて車イスへ移動した。
なんという悔しさ。
部屋に戻ると母親と妹が来ていた。
心配させないように「よう」と声をかけ、ベッドに移った瞬間だった。
息を切らしながら、神経内科の先生が飛び込んできた。
「MRIの結果なんですけども、ちょっとよろしいですか」
本日2回目のドキン。心臓が爆発するかと思った。先生来るの早すぎないか?
「ご本人も聞かれます?でも動くの難しいですよね…ご家族の方だけ、にしますか」
「じゃあ、行くか」と父親が母親を促す。妹と二人病室に残され、不安な時間を過ごす。
15分くらい経っただろうか。病室の外で「じゃあその方向で」と先生が言っているのは聞こえた。
なんだ、なんだ方向っていうのは。意識が飛びそうになる。
部屋に戻ってきた両親は至って普通の顔だった。いや、母親の顔は確実に引きつっているのがわかった。
「なんだって?」
待ちきれずに訊いた。
「…脳梗塞だって」
父親がボソッと答えた。