久しぶりの三島由紀夫。
1950年に実際に起きた金閣寺放火事件を元に、その罪を犯した青年僧侶の狂気を探るように描かれた作品。
実際はどうであったのだろう、青年僧侶を取り囲む環境は確かに暗いものであったが、心の持ちようによってはまた違った展開も期待できた。
しかし、青年僧侶にはそれができなかった。
そして自ら破滅へ破滅へと向かっていくのだが、この“破滅”というのは、我々の考える破滅なのであって、彼にとってはその破滅行為こそが生きる証であり、己のアイデンティティーを確立する術であるのだから最早仕方がない。
自分の吃音や貧しい生い立ち、母親への不信感、そんな彼の前に佇むあらゆる美を具現化したような金閣寺。
美とは何かという疑念に常に支配され金閣寺と対峙し続けた青年僧侶の哀しい選択の数々は虚しいし、やはり恐ろしい。
そう思うと同時に、理詰めとも思えるほどの言葉でもって彼という“人間”を描ききった三島由紀夫は、やっぱり凄いなと改めて思うのだった。
日本純文学、やっぱりいいな。