タイトルと著者名だけ知っていたよ、シリーズ。
本屋さんにて、装丁の可愛さと、帯にある1文とがあまりにも似つかわしくないのを見留めて、思わず手に取りました。
おいおい、何があったのさ?
実は私、このタイトルから、『星の王子様』的なお話を想像しておりました。
ところがどっこい(?)、それこそ真逆なお話。
言ってしまううと、『月』も『六ペンス』も小説の中には出て来ません。
解説にあった翻訳者の言葉を借りると、『月』は美であり『六ペンス』は世俗の安っぽさを象徴しているかもしれないし、或いは、『月』は狂気、『六ペンス』は日常を象徴しているかもしれない、という事であり、成る程、読んでみれば納得ということになります。
既存の安定に甘んずることなく、家族がありながらも四十半ばにして理想の探求へと舵を切ったストリックランド。
何のあてもなく、突然画家へと転身します。
そのやり方は、突然イギリスの家族を捨てて、異国(フランス)へと旅立つというもの。
当然、妻は怒り狂い、知人に足取りを追わせ、しかし画家への転身という理由で家族が捨てられたことを知ると納得できず、誰かと駆け落ちをした事にしたがります。
(妻は軍人の家系に生まれ育ち、女が家の為に働くことなど恥だとしながらも、親類の援助で会社を作ってもらい、それで生活をすることになります。)
勿論何のキャリアもない彼が画家として認められる事もなく、極貧の生活を送る中で、生活は荒み、性格もとても面倒くさい!
その上新天地で良くしてくれたお人好しな友人の妻と恋仲になりその彼女自身を自殺に追い込んでしまうし、「好きなように生きる」のは構わないけれど、巻き込まれた人は大迷惑!
そんなこんなでフランスを逃げるように去り、晩年をタヒチで過ごしたストリックランドは、そこで理想の妻(DVを受け入れ、見返りを求めない)と子どもにも恵まれ、やっと安寧の時を得られるのだけど。
それも束の間、彼はハンセン病におかされ、壮絶な最期を迎えます。
その元来の性格や病から存在を疎まれていた彼の絵画は、彼の死後に突如脚光を浴び、高値で取引されるようになります・・・。
すると、捨てられたイギリスの本妻や子どもはそれまでの事は無かったように、彼の絵を何枚も部屋に飾り、もともとストリックランドには才能があったのだと誇らしげ。
「こういう絵があると、生活に彩りが生まれる」とまで言って見上げる絵は、ストリックランドのタヒチの妻が子どもに乳を与える姿という奇妙。
この小説のなかで、折りに触れて、このような女性の愚かさを感じさせる表現が多くて、男性が描いた、男性の理想の物語なのかな?という印象がとても強かったです。
書き足りない感想がまだまだあるので、興味のある方は、ぜひ読んで貰いたいな。
※お気づきの方もいるでしょうが、ストリックランドのモデルはゴーギャンだそうです。
が、ストリックランドとゴーギャンとで、共通することは少ないそうです。