『時の狭間』
あれ?
俺はスーパーで
食い物や飲み物の買い出しを終え、
出口を出た。ら、
呆然と立ち尽くしてしまった。
目に見える何もかもが止まっていたからだ。
道を走る車も、電線から飛び立とうするカラスも
歩道を歩いている人たちも………
何だこりゃ……
と口に出したところで、見える光景は変わりはしなかった。
「ヘ~アタシだけじゃないんだぁ」
女性の声が何処からか聞こえてきた。
俺は驚きのあまり、端にいた通行人…
とは言っても今は歩いている格好をしたまま停止している人にぶつかり、
その人がそのまま倒れそうになるのを支えながら声の主を探した。
「キャァハハッ!!
何やってんのアンタ」
俺の真後ろからその明るい声が聞こえてきた。
その声に目を向けると、
そこには高校生らしき女性が腹を抱えて笑っていた。
「笑い事じゃないよ!
ちょっと、て、手伝ってくんないかな?」
「え?アタシ?ヤだよ、めんどい」
「頼むって」
「しゃあないなぁ」
「ごめんね、手伝わせちゃって」
「高くつくかんね」
と会話をしつつ、二人でその通行人の体を安定させた。
「ね?」
冷や汗を拭い歩道に腰を下ろした俺に
彼女が話しかけてきた。
「何でアンタも動いてるの?」
「何でって訊かれても……
こっちが訊きたいよ、
どうなってるんだ?」
俺の発言は彼女にとって意外だったようで、目を丸くしていた。
「えーっ!マジ?
初めてなんだぁ、
じゃアタシの方がせんぱいだぁ」
と、胸を張ってみせる彼女。
彼女の話に依ると、
彼女はこの現象を『ハザマ』と呼んでいて、幾度となく経験しているらしい。
この『ハザマ』は現実逃避したくなる様な精神的極限状態に起こるらしい。
「で、そんなときに特別なドアを通ると
こんな感じに成っちゃうんだよね~」
と、車が跳ね上げたであろう
宙に浮いたアスファルトの欠片を
突っつきながら言った。
何度も経験している彼女に質問してみた。
「どうすれば元に戻れるの?」
「分かんない」
「ふ~ん……
え?え~っ!
な、な、何でぇ?!」
またまた彼女に依ると
今までは通ったドアに再び通ると
元の時の流れのある世界に戻るのだが、
今回はその帰るための二度目を
『ハザマ』の方向に俺が使ってしまった。
で、
特別なドアが移動……
違うドアに移ってしまったらしい。
「じゃ探そうよ?」
と、俺は立ち上がったが、彼女は……
「イイよ、このまンまで」
と、一向に立ち上がろうとしない。
「戻ったって良いこと無いしっ」
俺は彼女の横に座り直し、
今にも泣き出しそうな曇天の空を見上げた。
「もう、独りじゃないしぃ
このままがイイ」
こっちも泣き出しそうな彼女の横顔を見詰めた。
「ね?遊ぼ?二人で」
彼女は元気よく立ち上がり、俺の手をグイッと引っ張った。
色んな場所へ彼女は案内してくれた。
その間、彼女は終始とても明るく振る舞い、俺を気遣ってくれた。
今まできっと孤独だったんだ…
俺は今の彼女の明るさに憂いを感じていた。
公園のベンチに並んで腰掛ける。
「二人って楽しぃ」
「そうは見えないよ」
「そんなことないよ~
アンタと居ると楽しいの」
「戻さないか?」
「イヤ」
「時間の流れを」
「ヤダ」
余りにも頑なな彼女の手を取り、
真っ直ぐに瞳を見つめて俺は
「俺は時間が流れだしても
居なくならないよ」
堅かった彼女の表情が少し和らいだ。
「デートしたいんだ、君と」
「………」
「遊園地で、色んなアトラクションとか
乗り物に乗ったりしてさ」
「……」
「例えば、ジェットコースターとか」
「…イヤ」
「コーヒーカップは?」
「ん~ヤダ」
「メリーゴーランド」
「ん~~」
「じゃ、観覧車は?」
「ん、決まり!約束だからね!!」
満面の笑みになった彼女は
俺の腕を掴み、駆け出した。
足取りは軽やかで、ハツラツとしていた。
ある程度走り、
見慣れた街並みになって
俺もよく知る建物の前で立ち止まった。
「此処って……」
「ん、次は横の入り口なんだぁ」
笑顔を見せ合い
俺たちはその入口へと駆けだした。
おわり