人間が六十歳になるころには、脳は信じられないほどおびただしい共鳴に満たされた場所になる(とわたしは思う)。
人生と、歴史と、過程と、パターンと、ちらちらのぞき見された無数のレベルのあいだのアナロジーとで、ぎっしり詰まっていることだろう・・・・。
老人たちがひまをかけて返事をするひとつの理由は、あらゆる単語とキューが千もの連想を目覚めさせるからだ。
もし、かりにそれらを解きはなち、開けはなすことができたら?
自我と地位を捨て、あらゆるものを外に出して風の匂いを嗅がせ、衰えてきた感覚に、そこにあるもの、成長するものを感じさせよう。
あなたの無数の共鳴はおたがいに融けあい、たわむれあい、変化をとげてもどってきて・・・
新しいことを告げてくれるだろう。
ひょっとすると、成長の方法、ふたたび内面を変える方法が見つかるかもしれない・・・
たとえあなたの外面が、しょっちゅう「えっ、なに?」と聞きかえすほど耳が遠くなり、また、口臭がひどくなっていても。
しかし、そうするためには、何年も前から準備しておかなくてはならない。
自分のいちばん強力な城砦から思い切って引越し、最後の窓から外に飛び出す用意をしなくてはならない。
魔法の週末の旅に出かけるために荷作りをし、自分の脳を荷作りし、用意しなくてはならない。
真実を恐れるな。
最後の大レースにのぞむ蒸気船のように、燃料を積みこみ、川下に向かうときはそのすべてを惜しみなく燃やし、家具も、船室も、喫水線の甲板までも薪にくべなくてはならない。
ただひとつ、 火だけは絶やさないように。
それがあなたをこれまで行ったことのないところへ運んでいってくれるのだから。 ひょっとすると・・・・なにかの方法で・・・・それができるのではなかろうか。
(ファンタスミコム誌11号掲載のエッセイ、「静かな下り坂」)
本名が明らかになってからも約10年間、ティプトリーの名で作品を発表し続けた。
1987年5月19日、老人性痴呆症が悪化した夫を、前々からの取り決め通りにショットガンで射殺し、みずからも頭を撃ちぬき自殺した。71歳であった。
発見されたとき、ベッドに並んで手を繋いだ状態で横たわっていたという(ウィキより引用)
この雄弁さに足すものも引くものも感じない。
パーフェクトにして痩身なのにぎっちり密な人間の脳の筋肉を感じる。









