「どうやって自信ってもつんですか」
まんがの講座中に生徒さんの女性からこう聞かれました。
この日、講座内で取り上げたキーモチーフは「あおり・俯瞰(ふかん)・デフォルメ・パース」という描写技法についてでした。
デッサンとかと異なり、まんがの講座ですのでリアリティや肉迫というよりも、読み手の方々に違和感のない、座りのいい、ソフトランディングな表現ができていれば及第点なのです。
受講されてる方も、瞬間瞬間で「急激にうまく見えだす」ご自身の絵に出くわすとき、いつもと同じ筆記用具から、雑誌やテレビでみたような表現が生まれだすと、水際立って嬉しさをほとばしらせてくれます。
そうした歓喜が、自身の中で芽生えだすのと同時に、それら技法が「この講座内」だけのたぎりのようにも感じてるのでしょう。
「家に持ち帰ってでも見劣らぬなにかを・・」つまり今・得た・感慨を「その瞬間の嬉しさ」に留めずに、常態化できるまでに持ち込むには・・・という「欲目」に至れた際に口から突いて出た言葉が「どうやって自信ってもつんですか」だったのです。
聞いた瞬間、一瞬頭がボゥ、としたのです。
え、自信ですか?自身は自身で持てるとこまで追求するものじゃないんですか?・・と瞬間頭をよぎるのと同時に、ああ。これって、「言葉通り」「額面通り」で請け負っちゃ、的を外すやつだとも思ったのです。
この際の「自信」とは、講座内で個々人が描いてる一つ一つの絵を、私は激励と奨励も込みで「うまく出来てます。うまく描けています。自信持って」と声がけをします。
事実、その日教えてる「あおり・ふかん」の絵は各自とても「初めて描いた」以上の「それっぽさ」を生徒さんは達成していました。
ただ、「自分でそう先生がおっしゃっていただけてるほどに『描けてる』」とまでは、生徒さん自信がどうしても思えてこない、という話です。
「だって、同じ絵でも、先生の絵は息づいて見えるんです。うまく見えます。
けれど、私の描いた絵は・・・なんか下手なんです」とおっしゃるのです。
ホォ!
そう見えましたか。
その目が「できた」んですね!と私は色めき立ちましたが、この女性の生徒さんは、素直にご自身の「自信のなさ」を吐露したのです。
なにごとも、「やり始める最初」には、「自分ができてること・こなせてること」に対し、「ものさし」を持ち合わせてないことがあります。
テクニックとして達成できてたり、平準線より上の域までこなせていても、「自分の内側の方で、それが果たして『上手い』とほめそやすほどのものか?」にどうやって合格を言い渡すのかの準備高がないのです。
ここで私が褒め直したって詮無きことなのです。
こういうときは、同じ講座内で、同じ気持ちでいる生徒さんに任せるのです。
「ちょっとこっち来てー」と他の男の子の生徒さんに、女性の絵を見せまして「どう思う?」と感想を求めました。
「上手いです」・・・実際、うまく描けていました。なんなら、その子より上手いくらいでした。
で、その逆に、女性生徒さんに、男性生徒さんの絵を見せました。絵柄や工夫の観点が違うだけで、やはり女性生徒さんも「上手いです」と素直な感想を言いました。
「でしょ?」
と私はいいました。
「今ね、こうして教えてる直後ですので、ふたりとも描けてるんですよ。及第点です。
・・・でね、たぶんお二人とも『自分の絵の方は上手くなかったな』って、思ってるでしょう?」と言い添えると、ふたりとも少し照れて、うん、とうなずきます。
「そうなんですよ・・・実はふたりとも、ちゃんと描けてます。
最初ね・・・はじめて描けてる時って、自身も真似て描いてるだけで、うまくなってるとは自身ではおもえてないだけ、なんです。
・・・でもね、こうして互いの絵を・・・他者の描いた絵は、上手くいって、みえる。
これって・・・これが、『ただ、自信がないだけ』の状態なんです」と付則しました。
一呼吸置いて、
「こんなふうに、自分自身が得心がってない話なだけでして、他者からは十分描けてるって互いに見えたのは嘘じゃなかったですよね?・・・もう描けてるんです」といい添えました。
「えー・・・・自分のは描けてないですぅー」と女性生徒さんはいいました。
私も笑って
「そう見えちゃいますよね。それは『自分の絵だから、色目がついて見えていないだけ』なのは、今、お二人が互いに褒めれたことから、わかりますよね?人から見たら、『出来てる』なんです・・・・・
あとは、しゃにむにたくさん描き続けてれば、おのずから『自信』めいたとこまで、気持ちがついてくる日が来ますよ」としめくくりました。
描けてるのに、自信に至れない・・・これは正確には「自分のものにしきれてない」口惜しさを心に芽吹かせたことですし、欲張れてるってことです。もっとうまくなりたさ、の言質です。
これ聞けて、嬉しかったなあ・・・・
そのあと、同じ絵を、その男の子、私の絵、とシャッフルしておいておいたんです。
帰り際に、生徒さん個々人の絵を持ち帰ろうとする際には、先程まで「先生の絵はうまい」と称された私の絵すらも、生徒さん同士で「自分の絵」を探し出して持ち帰る際に、「見境がつかない」状態になってのが、見てて面白かったんです。
互いに、誰の絵も「大差がなかった」から、「どれが自分の描いた絵か」が瞬間解んなくなってたんです。その『色目で見なさ」の目ができちゃってたからこそ、帰り際に和気あいあいと「どれだっけー」と迷えたんですけどね。
そこは、じつはもう、一山超えててですね、ひとつ自信がついたんですけどね・・・わかったかなあ?ふふふ。
「どうやって自信ってもつんですか」って質問が出せるのも、取り掛かった初期のうちだけの感慨です。その質問と、その感慨を、いつでも思い出してくれるといいなあって思えた夜でした。