「フラッタ・リンツ・ライフ」森博嗣・著
フーコがクリタに海で伝えた言葉。フーコは続けて言う「なんでかな」
相殺できたり、補え合えたりできる感情ってものはない。混ざったり、忘れたり、にぎやかしたりはできるけれどそれはなんだか半分自分で自分をだますような手管。「なんでかな」
フーコが本気で「悲しいこと』を「嬉しいこと」で消したいなんて思ってやしないだろうけど、できればいいのに、なんでできない仕組みなんて話がまかり通るんだろう、という静かで深刻な希望がたゆたっている。
本気すぎることは、いつも言葉が、間に合わなくなる。
嬉しいことで、悲しいことが消えたらなんだか、人の根っこの部分では、もっと、うんと、悲しくなってしまいそう。
私たちは、悲しい、ってことを、そのまま、大事にしたいのかもしれない。
