今から来てくれるお客さんのためだけに腕を振るって押し寿司を作る景色。懐かしいって必ず喜んでくれる期待感。出入りの自由な在所。
かつて一緒に過ごしたことのあるもの同士だけに通じる「言わずもがな」を共有できる時間は豊穣だった。
かつていたキーパーソンは既に鬼籍だが、生前の活躍してた時の息遣いを覚えてる人らが思い起こすことで、にわかにそこへ息吹のようなものを、居合わせた全員が瞬間「かつての気配」を取り戻す。
阿吽の呼吸でそれは起こるし、まさに互いに答え合わせは無しに「うん、そうだったね」ってただ優しく過ごせる。
若い人ら、新参の人にはわかるまいが、たしかに表現し得ない部分で共感は水際立って生きるのだ。
硬直した懐古なんかではない。
今起こる新鮮がそこにあり、かつて若かった人らのもっともはつらつであった感覚は瞬間的にタイムリープする。
今や老境の域に達した、かつてのフロントラインを担った主戦力の人らが、頬に血の気を集めてわれ先に喋り進める気配と間合い。
笑うとこは決まってる話。
泣くとこも決まってる話。
けどみんなうかつにそうなるしたくも出来てる静かな結託。
また同じ話、だなんて誰も言わない時間。
そうっと微笑んで、見渡すみたいにほんの少し遠くを眺め合う。
この上ない優しい時間だった。
その場に話す一員として許される嬉しさは、ヤングには分かるまいよ。
この日、一番幾度も戻って来たのはいとこののんちゃんで5回出入りしてた。けどみんな笑って迎い入れた。そして終焉した宴の見送りまでいてくれた。