それは例えるのならば「フライドドラゴンフィッシュ」のような良さ 「ペンギンハイウェイ」の話 | アメブロなpandaheavenブログ

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最近漫画の先生始めました。
好評です☆

写真を撮ったり映画を見たり。でもやっぱり普通が一番!
みんなも無理しないでね!

(これは10年前のくらいのエッセイです)

 

2018年の夏の映画では「ペンギンハイウェイ」が面白かったのです。色々映画が上映されていますが、これが面白かったし、ある種のマイルストーンでした。
正直、それほど期待していなかったのです。森見作品にしては、一般受けする絵柄になっていてくれたことと、目立たないけれど、BGMのセンスは非常に冴えていました。センスがいいのです。絵柄の邪魔立てもしないし、スマートに盛り上げてくれる。

脚本がヨーロッパ企画の上田さんなる方なのはいつものことであるけど、いつもの「芝居めいた」方向に作品が行ってしまったら、嫌だなあと内心思ってたのですが、いい意味で「アニメ好きの人たち」の見慣れたアニメとは、作りや趣向が綺麗にセパレートになっていて、映画ファンにも見やすい構成にしてくれてた姿勢の良さがうれしかったのです。

森見さんの世界観に、市民権を与えるべく、フントードリョクしているであろうスタッフたちの結実を見た気がします。そもそも「おっぱい」に執着し過ぎた男の子の妄想のファンタジーに偏ってしまうところを、ギリギリ世の中との居心地を見つけ出そうと作品全体のクオリティーが工夫しあっていた。カップルで見に来ていた客たちは、見終わっても、沈黙のうちに帰路についていた。女性の方には「おっぱい」は魔術にならないのに、「森見作品」という銘柄のスパイスで、ペンギンまみれにしてふわーっと浮ついたものでくるんで、ちょっとした夢心地を生み出している。

これがすごいことなんだ。

このごろのアニメ・コミケじみた作品たちでたどり着けないところへ、この作品は観客を運んでいる。この点、すごいことなのに。

ある意味とてもニッチな行間を突き進んでいる作品。ただ、その昇華がとてもスマートで、見ているこちらの気晴らしに足るのだ。「この作品につきあってみる」ことに、ふんわりとしたファンシーで、ファンタジーな、マシュマロタッチなやる気を生み出させる。私はそうだった。

「日々の本当」から気をそらし、ひっぺがして、しばらくホンローさせて、やがてやんわり元の位置に戻すが、気分は冴えているという、映画の役割をちゃんと担った作品だった。それゆえ私は、この作品を高く評価して褒め讃えてしまうのだ。

少し熱狂から冷めて、多分「蒼井優」さんが声を当ててたせいもあって、ぼんやりしてると、「花とアリス殺人事件」の蒼井さん、から思考が「岩井俊二」作品にスライドして、「フライドドラゴンフィッシュ」をふと思い出した。

当作品は、今となっては少々古い「メーンフレーム」の描写がある。パソコン通信時代にはああいった電子ネット上の「重要機密」の描写は、周知されきっていない世界観故の「かっこよさ」に見受けられるが、インタネット主流の今となっては少々古くさくみえるシーンがいくつかある。

「殺し屋」の描写も、どこか「少年ジャンプ」めいた芝居がかった、ステレオタイプな銃を持った殺し屋さんで、しらけそうなものなんだけど、そうじゃない。

「フライドドラゴンフィッシュ」が、発表された当時の映像世界において、どれだけとんがっていて、今で言う「意識高い系」めいたスタイリッシュな存在感を放っていたかを知っている輩には、「現代から見返したら古い」なんてチープな視野からの発言は聞く耳が持てない。

あン時にあんなジャンプの漫画みたいな世界観を恥ずかしがらずに、惜しげもなく映像に仕上げて来た岩井俊二の超弩級なパンチ力と着眼点と切込みの姿勢!彼以外の誰もできなかった映像とエモーションとねじ込んできたのだ。あの世界独特の「テンション」の張り方のかっこよさったら!

「その時代の、その時に、もっとも適切で、欲しかったエモーション」をスパン、とそこに生み出して居座らせ、じわりとそれが「次世代にはオーソドックス」になってくれることを期待させる、そう希求させる、渇望させる魅力にあふれていたのだ。「ペンギンハイウェイ」がそれに相応するほどのものかどうかは人によるでしょうが、私には「フライドドラゴンフィッシュ」とは、ベクトルを異にするものではあるけど、同じウェーブを浴びた気がしたんです。
そしてそれがとてもうれしくって、愛おしかったんだと思ったのです。

「色あせない」というのは、作品世界に使われてるグッズなんかの新旧なんてのには全く左右されない。「あのときに受けたショック」だけが本物で、それは「その時代に、そこで出会った」人たちだけでしか共有されないもの。
それを現代っ子がいいの悪いのと言ってしまえるとしたら、昔の白黒映像を見て「昔の生活は色がなかったんですね」と見たままだけのことへ感想を言い放つくらいに、智慧のないものの捉え方と同じ。

映画「ペンギンハイウェイ」にはそうしたハナの効いた良さを強く覚えました!