にほんブログ村
「夏の四谷怪談、冬の忠臣蔵」と言って、江戸の世から日本人が大好きな話であり、数多く映像化されていたお題であったはず。
近年、四谷怪談も忠臣蔵も、全く作られなくなってしまった。やっぱり日本人は、大事なモノを忘れ去っている。
今回、観た映画は下記の3本。
「四谷怪談」(昭和31年 新東宝 若山富三郎、相馬千恵子)
「東海道四谷怪談」(昭和34年 新東宝 天知茂、若杉嘉津子)
「怪談お岩の亡霊」(昭和36年 東映 若山富三郎、藤代佳子)
モノクロ、カラーそれぞれの特性を活かして、恐怖を演出。それぞれが工夫を凝らした味わいがある。特に今回初めて観た31年版は、丁寧な作りが好印象で、怖さを増幅。
若山富三郎は2度も伊右衛門を演じている。
そして、若山伊右衛門は実にパワフルである。
31年版の伊右衛門は、クライマックスで墓場で自分の母親を手に掛けた後、町方に取り囲まれてしまうのだが、ここから伊右衛門が驚愕の大暴れ。お化けよりよっぽど怖い。
町方をバッタバッタと切り倒し、棒で押さえ付けられてもはねのけ、拝一刀ばりの殺陣を展開する。最後は自ら舌を噛み切ったのか?(しかしセリフを言うが)口から血を流し、お岩さんに許しを請うて死ぬ。
36年版は東映制作ということもあるのか、クライマックスはまるでヤクザ映画の出入りである。
だって、ヤクザ映画の名監督、加藤泰の作品だもの。
小雪の舞い散る中、仇討に訪れたお袖と助太刀の与茂七。
「おもしれえ、相手になってやる!」と、ここでも若山伊右衛門は大暴れ。敵味方入り乱れての大乱闘となる。挙句の果てに、伊右衛門はお袖の襟首を掴んで、怪力で引きずり回す。
四谷怪談って、こんな話だったっけか?
直助役は、大俳優、近衛十四郎(松方、目黒兄弟の父)である。扱いが違う。
他の映画では小悪党のまま死んでいく直助も、この映画ではラストでちょっと小粋な善人であったりするのも見どころ。最後に格好良くセリフを決める。「直助・・・運が・・・無かったねえ・・・。」
「東海道四谷怪談」(34年版)は、自分が好きな映画。正統だと思う。
自分と伊右衛門を重ね合わせた時に、感情移入が出来てしまう。
罪の意識を感じつつ、自分で止めることが出来ずに悪事を重ねる男の弱さ、自身に対する情けなさの表現、天知茂って上手いなあと思う。
「俺が悪かった!許してくれえ!」と、最後に振り絞るように叫ぶ伊右衛門、そしてそれを聞いて、ようやく成仏し、朝日の中を赤ちゃんを抱いて昇天していくお岩さんの美しい姿。
観ている側も、これで恐怖から解放され、晴れ晴れとすることが出来るのだ。
因みに、映画・ドラマ化された四谷怪談の伊右衛門には2つのパターンがあって、「最後に反省して謝る」のと「最後まで謝らない」。
仲代達矢、佐藤慶が後者のパターンである。実は、男のつまらない意地や強がりをうまく表現していたりする。
自分だったら前者。あなたはどちら?