N side
昨日のリーダーは珍しい感じだったな・・・などと思いつつ、収録現場に向かった。
いつものように送迎車の後ろ、シートに深く身体を沈めながら。
そしてヨレヨレになったロンTの襟ぐりを肩からぐいっと引っ張り上げながら、彼のことを考えた。
基本、メンタルの安定した人だから、あんなことは滅多にない。
でも
あいだみつおも言ってる
人間だもの(笑)
そんな日もあるさ。
俺だって、そんな日ぐらいあるもん。
頼ってるようで頼られていて、絆と言えば綺麗に聞こえるかもしれないけど、相互依存と言えばどう聞こえるんだろう。
だいたいだな、絆は美しく、依存は卑しい
一理はあるけど、綺麗で美しいだけなんて、俺にしたら逆に汚いようにも思える。
無知と純情が紙一重みたいにさ。
愛や恋なんかで繋ぎとめることができる期間は、相手も自分も大して長くない。
俺はちゃんとソレを知っている。
俺が欲しいのは、もっと、違うモノだよ・・・。
車中から建物に入って、廊下を歩いた。衣装に着替えてセットして貰って、随分長いことリーダーのことを考えてしまった。
全く、リーダーのせいだ。
あんな、らしくないセンチメンタルな感じを出してくるもんだから・・・。
歩くうち、仕事へのスイッチを入れるべく、俺は顎に手を添えて首の骨を鳴らした。
「二宮さん入りまーす」
方々に頭を下げながらスタジオに入る。
心を込めて礼をします。お仕事だから。人間関係の円滑さは仕事、引いては自分に利益になることも知ってるし、社会人だから、一応ね。
テレビ局もドラマも映画も撮影現場はいつもどこか賑やかで、どこかしら落ち着かない。レギュラー番組とかじゃなかったら尚更。
番宣です。
連日の番宣であちこちにお邪魔してます。
でも、今日は少し気が楽なんだ。
「にの、今日はよろしくね」
翔ちゃんは自分の胸のネクタイの結び目を触りながら言った。
「お邪魔します。宜しくお願いします」
ほんとにね、ほんとはホッとする。グループ、メンバーっていいよね。
「なんかさ、当たるらしいよ」
唐突に翔ちゃんが言った。
「珍しいじゃん。翔ちゃんがそんなこと言うなんて」
番宣のコーナーで、今日は私を占って頂けるそうです。
「俺も見て貰ったんだけど、マジで当たんのよ。ヤバイよ」
「またまたぁ」
「違うんだって。なんつーか、見えないものが見えてるっぽいんだよな」
「ますます怪しいじゃん」
翔ちゃんが真顔だったので、いよいよ可笑しいように思えて俺は少し笑った。
「紹介でしか見ないし、素性も完全非公開。普段は普通の主婦で、自宅に黒塗りの高級車で凄い人が見て貰いにくるらしいよ。ヤバくない?」
翔ちゃん、さっきから何回ヤバイって言ってんのよ。相葉さんみたいになってるから。
それが俺には面白かった。
内心、まるで興味は無い。
しかし、コレがお仕事。
慌ただしく時間が過ぎて、俺もセット裏でスタンバイ。収録が始まった。
「あなたはとても頭がいい人。面白いことが大好きなのね」
「お仕事も問題ないわ」
「あら?近いうちに、大きな別れがあるかもしれない。あなた、自分から大切なそれを手放してしまうかもしれない」
思わず心の中で『へぇ・・・』と思ってしまった。
迂闊にも、お仕事なのに、オフィシャルなのに、一瞬、攻撃的な眼をしてしまったかもしれない。
いつものよくある占いコーナー。
違うのは、占い師がほんとうに普通のおばさんで、言う事は悪意もなく断定的。
ただ、
ただ、俺はさ
迂闊にも、ほんとうに迂闊にも、この時、リーダーのことを思い浮かべてしまったんだ。
変わったことなんか劇的に起きやしない。
何度でも言うけど普通に生活してるだけなんだから。
何も起きるわけがない。
まずは違和感で始まる。
そして
こんなはずじゃなかった
なんて思うのは
いつも、どうにもならないような末期になってから。
まだ、違和感さえ感じていない。
大切なモノを、あれほどに大事にしてきたモノを、俺が自分から手放すわけがない。

