O side
「あんさ、あんね・・・」
と、おいらが言えば、彼は説明すんのがあまり上手くないおいらの言いたいことを推し量るみたいに、じっと話を聞いてくれる。
いつも、いつも、ずっと昔から。
「で、こういうことね。つまり・・・」
彼は少し笑って言う。
おいらの言いたいことをちゃんと理解してくれる。
「そう、それ!!そうなんだよ!」
まるで、全部分かって呉れたみたいに思って、つい力が入っちゃうことも。
そんな時も彼は優しく笑って呉れて、ただ、いつもと同じように隣に居てくれる。
今みたいに。
仰ぎ見えるのは夜の天井。
薄いカーテンの向こうは濃い群青色で部屋の中はしんと静かだった。リネンの擦れる音だけがする。
そういえばこの頃、裸で布団にくるまってても、肩やらつま先やらに、すっかり寒さは感じなくなっていた。
こういう時は夜の密度が濃い気がする。なんとなくだけど。
「早いなぁ・・・。もう、すぐに夏だよ」
「だね」
おいらが独り言みたいに言ったら隣りのカズも、大きく息をするみたいに言った。
「もう夏は言い過ぎだろ。その前に梅雨もあんじゃん」
「あ、そか」
「・・・あんまり黒くなったらダメだよ」
日焼けのことを言うその声が、あまりに静かで優しくて、おいらはカズに後ろから抱き着いた。
そして、うなじに顔をうずめて、すんすん犬みたいに鼻を鳴らした。
カズは何も言わずに手を器用に伸ばして、おいらの背中をトントンとゆっくり撫でるみたいに優しく叩いた。
なつかしいようなせつないような、愛しいような悲しいような自分でも戸惑うような気持ちになってしまった。
だから、だから思わずカズを、ぎゅうって、強く抱きしめた。
「どうしたのよ?」
薄青いような部屋に響くカズの声は変わらず穏やかだった。
おいらは
「なんもない・・・」
としか言えなかった。
「なんもないことあるかよ」
そうは言われても、相変わらず夜は静かで、さんざん抱き合った後でもこんな頼りないような気持ちになるなんて、説明も出来なきゃ理由も分からない。
「寂しいの?」
おいらは顔をうずめたまま首を振った。
寂しいなんてことあるかよ。ふたりでいるのに。
そうだよ。ふたりでいるのに、寂しいなんて、そんなんあるわけない。
おいらは後ろからカズを抱きしめたまましばらく黙っていた。
「しょーがないな、ホントに」
そう言ってカズは、よっこらせと言わんばかりに、こっちに向きなおった。
そしておいらを抱きしめた。
女の子みたいにカズの腕に抱かれると、自分の頬がカズの肩口や胸に触れると、温かくて、凄く温かくて、涙が出そうになってしまった。
「こんな日もあるわな、たまには」
そう言いながら眠そうに薄く開いた眼。
優しく緩んだ口元。
「ずっと、こうしててあげるよ」
眠る間際までおいらのことを考えてくれるという提案。
ゆっくり、ゆっくり遅くなるトントン。
ああ、この人は・・・。
この人は自分のことをほんとうに好きでいてくれると心から思う。
何があっても味方でいてくれると、まるで地面に雨が沁み込むように思う。
好きだ。
好きだよ。
馬鹿みたいに好きだ。
友達でも恋人でもいい
家族でもなんでもいい
どんなカタチでも傍に居てくれるのなら。
そんなことを泣いてしまいそうに思うのは
身勝手にもほどがあるんだろうか・・・。
