第一印象という言葉がある。
人当たりの良さだったり言葉遣いだったりそういったもので構成される。

しかし、一番の要素、それは顔であると思う。








「いかがですか〜?いかがですか〜?
顔、顔、顔。
様々な顔売ってますよ〜。」



いまどき珍しく顔を売っている店がある。
やる気のなさそうな声、買わせる気もそうなさそうである。


だいたい今は通販で買うものだ。
あんなところで買うのはネットに疎いおじさま世代だろう。
















ここ二年ほどで顔を売買するビジネスは
市場を少しずつ広げていた。
シート状の顔を顔にはりつけることでその顔になることができるというものだ。
自分自身の顔をシートにして剥がし
他の人の顔を貼ることでその人になれる。








自分の容姿が気に入らず、他人の顔を買う人。


逆にとてつもなく容姿がいいために中身を見てもらえず、自分の容姿ランクを落とす人。


過去から逃れるためにいわゆる普通の顔にする人。




また、どんな顔も需要があるため自分の顔を売ればある程度の報酬がもらえるので生活費に困った人が顔を売ったりもしていた。









まぁ、さすがに人々はこの新たな文化に怯え、
手を出す人が爆発的に増えたわけではなかった。
都市伝説のようになっているフシもあった。












まぁ、自分はユーザーなのだけれども。







私が顔を買ったのは簡単なこと。
付き合っていた人に振られたから。
振られた?ううん、振られたのではない。
この世に存在しない役職を割り与えられただけか。




彼は私に付き合い始めて半年後にこういった。
「僕には夢がある。その夢を叶えたときに君を迎えに来る。だから、待っていてくれないか?」
彼はそう言いのこし、すぐに海外に行ってしまった。


決めたら突然行ってしまうところとか
私の答えを聞かないとことか
そういうところが好きだったみたいなところもあったのかもしれない。
とにかく私はなんの確証もない人をただ待つというメレンゲよりふわふわな存在になりかけた。
プロの作ったメレンゲね?





私は彼を信じることができなかった。
いつ帰ってくるかもわからない、あの人を待ってるのは馬鹿らしかった。
なんなら怒りすら感じていた。
見返してやろうと思った。
私はメレンゲになんかならない。









めちゃめちゃに綺麗な顔を何個も買った。
これまで貯めてきたお金が火を吹いた。
朝ドラ女優のような清楚なお顔。
モデルのような派手なお顔。
優しさに溢れた庶民派のお顔。
ハーフのキラキラなお顔。
などなど。
たくさんの種類を買った。
ネット通販様々。







色んな男性とデートに行った。
これまでの私には見向きもしなかったであろう人たちが、面白いくらい優しくなる。
顔を変え、中身もなんとなーくで変えながら遊んだ。
演劇ごっこのようで楽しかった。





明日はどんな顔で外に出かけて、ヒソヒソと褒められよう。
夜も明るかった。















ティロロロ、ティロロロ、ティロロロティン。
ティロロロ、ティロロロ、ティロロロティン。
ティロロロ、ティロ





「もしもし。」


「もしもし!久しぶり!!
俺だよ!!」


「あー、どうしたの?」


「あ、うん。実はさ、あの夢がかなったんだ。僕の頭の中にあった構想を面白いと言ってくれる人がいてその人が協力してくれて、うまく仕事に変えてくれたんだ!でも、正直不安もあったからきみにすべてをはなすことは





















































「そうなんだ!おめでとう。」
















「だからさ、会いに行こうと思って。」













嬉しかった。
同時に自分を恥ずかしいと思った。
信じてあげられなかった。
ごめんね。と思った。
難しいはなしすぎて途中からはよくわからなかったけど。
彼は私を待たせてはいけないと精一杯頑張っていたのだ。



私は泣いてるのがバレないようにバレるように














「私も会いたい。」







絞り出した。
















電話を切り、彼に会う明日のために服を選んだりした。
本当に明日が楽しみで仕方ない、夜は明るい。
会えるのが嬉しい。楽しみ。嬉しい。楽しみ。
自分がしたことを謝ろうということも考えると不安でもあったが。











鏡を見るととても美しく笑う自分がいた。
自分。自分らしい何か。













そうだ、もとの顔を探さなきゃ。












一年以上使ってないからどこにあるかはわからないが、確実にこの部屋にはある。
多分。


ウキウキで探す。
ウキウキで探す。
ウキウキで探す。
探す。
探す。
探す。
探す。
探す。
探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す探す。
探さなきゃ。
探さなきゃ。
探さなきゃ。



















無い。












どこにもない。

















頭が真っ白になった。
目の前は真っ暗になった。








自分はたくさんの顔を手に入れて
唯一、自分の顔だけなくした。
















私にはあの人に


















合わせる顔がないのです。




























※慣用句「合わせる顔がない」