ガタンゴトーン

ガタンゴトーン





駆ける電車の中で
扉にもたれかかりながら音楽を聞く。
次世代バンドの「永遠」とかそういう
少し薄めの歌詞にももたれかかっていたのかな〜。
周りを見ると全員がそういうふうに見受けられる。


学校終わりの高校生

鏡を使って最終チェックしてる女子

立っている人

座っている人

眠っている人



全員の耳に様々な色のイヤホンがささっている。
全員が音楽にもたれかかっている。
幸せそう。
音楽ってすげぇなぁ。



電車を降りて帰り道にコンビニに寄った。
コンビニの入店音もかすかにしか聞こえないくらいの音量で音楽を聞く。
気がつくとアーティストは変わって
友達にすすめられた好きでもない
バンドの曲が流れ始めた。
うーん、ベースの音が良い。
わからないがそう思っておけば
通かな?と思った。


いつも通り

イヤホンをこのときだけ外して

炭酸水と野菜スティックを買って

アメリカンドッグに目を奪われて

我慢して

ポイントをためて

軽く会釈して去った。



またイヤホンをさして
野菜スティックを食べながらアパートに向かった。
このときだけは脳みそがほぼ使われなくなっていて休んでる感じがする。

ん?
なんだ?あれ?


あー、イヤホンの亡骸か。
中身が出てしまって無残だな。
かわいそうにと拾って。














食べた。








野菜スティック付属のソースに
付けて食べた。









理由なんて無い。
ただどうなるかな?と思った。







その日、家に着くとベッドには行かず
そのままカーペットにゴロンとして寝た。
上から見たらさっきのイヤホンみたいになってただろう。
くたびれた。








次の日の朝、目覚ましで起きた。
否、普段かけているアニメの主題歌になった爽やかなバンドの曲ではない。
これは。
男性アイドルか…?



携帯からは流れていない。
実家から持ってきたコンポからも流れてない。
身体が震える。
ライブハウスのように響いてくる。
内臓が揺れる。
内臓…?
ん?内側からか…?
あー、昨日のか。
思い当たるふししかない。
あのイヤホンの持ち主、男性アイドルが
好きだったんだな。
意外と落ち着いて分析する自分に驚いた。




とりあえず財布の中にある診察券を
机に並べた。
昔ハマったカードゲームのようだ。
レッツデュエル。
この落ち着き方を大人になったというのでしょうか?それともこんなに診察券を持っていることをいうのでしょうか?


何科が正解かわからなかったが
内科の診察券をドローして家を出た。




イヤホンは置いて。










内部から流れる曲が思いのほか
心地よくて電車の中も楽しかった。


どこの国かわからない言語のセリフが入る曲。
明るくてテンションの高いダッシュしたくなる曲。
青春を思わせる切ない曲。
男性アイドルを聞かない自分だが
歌詞を検索してどうにかそのアイドルが七人組だということを知ったぐらいで病院のある駅についた。




診察券を出して待っているとすぐに呼ばれた。
その間も音楽は流れていたのでもしかしたらすぐではないのかも?


初老の先生が笑顔で迎え入れてくれた。




「どうされました?」
「音楽が鳴り止みません。」
「はて?」
「あ、すみません。言葉が足りませんでしたね。道端で拾ったイヤホンを食べたところ音楽が鳴り止まなくて。」
「なるほど。」
「野菜スティックのソースにつけて食べました。」
「なるほど。とりあえずレントゲン撮りましょうか。」





いらない情報を織り交ぜながら自分の異常性を隠した。できるだけファニーにへらへらしながら。
そのあいだもずっと音楽はエンドレスリピート。



撮り終えるとなんとも言えない顔で先生が


「イヤホンが内臓にささってます。
今の医療技術では取り除くのは不可能です。」


と語った。




母親の拾い食いはやめなさいを
もっとちゃんと聞いておけば良かったぁぁぁぁぁ。
もう二度と俺はあの次世代バンドの曲を聞けないのか?
もう二度と俺はあのコンビニの入店音をちゃんと聞くとはできないのか?


あのときイヤホンを見つけなかったら?

あのときイヤホンを拾わなかったら?

あのときイヤホンを食べなかったら?

あのとき野菜スティックのソースをもっていなかったら?

あのとき

あのとき


あのとき




あのとき










あのとき





「NO,MUSIC NO,LIFE.みたいなもんですね。」




先生のその一言で僕はなんだか安心した。














この話はフィクションかも
ノンフィクションかも
もしかしたら僕の空想世界かも
は?なにそれ?
あづ。