月曜の9時14分、内線が鳴った。 営業部の島からだった。私はまだ一杯目の缶コーヒーの銘柄を決めかねていた。 「米村さん、パソコンが起動しません」 またこれか、と思った。声には出していない。たぶん。

 

9時14分の内線

月曜の午前中に来るPC故障の連絡は、体感で全体の43%くらいある。 正確に測った数字ではない。去年つけていたヘルプデスクの雑記メモを眺める限り、火曜以降の1.7倍くらいには膨らんでいる、という程度だ。 1本目は「起動しない」。2本目は「ログインできない」。3本目でようやく本物のハード故障が来る。 この3本目までの間に、私は100円ショップの黒マグを洗うかどうかで少し迷う。だいたい洗わない。

情シスメモ
月曜の故障は、月曜に壊れたとは限らない。金曜17時半の違和感が、週末をまたいで育つ。

 

代替機の棚を開ける

まず聞く。 いつからか。電源ランプは点くか。アダプタを替えたか。昨日ではなく金曜の夕方に、何か変な音がしなかったか。 たいてい、最初の答えは「特に何もしてません」だ。 これを責めても仕方がない。人はPCが普通に動いている間、PCのことを考えない。私も家の給湯器が動いている間、給湯器のことを考えない。 代替機の棚を開ける。古い13インチが2台、ACアダプタなしの14インチが1台、なぜかマウスだけ3個。こういう在庫は、いつ見ても少しだけ腹が立つ。

 

台帳の備考欄に残っていた名前

資産管理台帳を開く。 対象PCの購入日は2019年6月。もう7年目だ。備考欄には「一度バッテリー膨張、様子見」と書いてある。 様子を見すぎたと思う。 書いたのは私だ。文句は言えない。 PC故障の半分くらいは、壊れる前から台帳に気配が出ている。購入年、修理履歴、アダプタ交換、液晶のにじみ。備考欄の端に、未来の内線が小さく書かれている。 若い頃は、その小さい文字を全部拾おうとしていた。今は全部は拾わない。拾えないとも言う。

 

再起動で直るもの、直らないもの

営業部のPCは、結局SSDだった。 月曜の朝に壊れたのではない。たぶん金曜の17時半には、もう音を上げていた。 代替機を渡して、共有フォルダのショートカットだけ先に作った。メールとブラウザが動けば、営業はとりあえず午前をしのげる。 完全復旧ではない。応急処置だ。 情シスの仕事には、この応急処置が多い。 きれいな解決ではないが、現場は止まらない。止まらなければ、社内ではたいてい「直った」と呼ばれる。 昼前、飲みかけの缶コーヒーがぬるくなっていた。今日は微糖だった。失敗だった。 台帳に1行足す。 「SSD故障。代替機貸与。正式交換は稟議待ち」 今日もなんとかなった。