嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)/角川書店
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1960年プラハ。マリ(著者)はソビエト学校で個性的な友達と先生に囲まれ刺激的な毎日を過ごしていた。

1980年代後半以降、東欧の共産主義政権の没落やベルリンの壁崩壊さらにはソ連の崩壊を、通訳業の現場にいて肌で感じ、プラハのソビエト学校時代の友人たちの消息が気になっていた。

親しかったギリシア人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ボスニアのボシュニャク人のヤースナの級友3人を探し歩き、消息を確かめた記録。


米原真理さん は、小学校3年生だった1959年父が日本共産党代表として各国共産党の理論情報誌 『平和と社会主義の諸問題』編集委員に選任され、編集局のあるチェコスロバキアの首都プラハに赴任することとなり、一家揃って渡欧した。

9歳から14歳まで少女時代の5年間、現地にあるソビエト連邦外務省が直接運営する外国共産党幹部子弟専用のソビエト学校に通い、ロシア語で授業を受けた。

ソビエト学校は、ほぼ50カ国の子供達が通い、教師はソ連本国から派遣され、教科書も本国から送られたものを用いる本格的なカリキュラムを組んでいたという。

クラスの人数は20人を越えると二つに分けるなど、きめ細かい教育だったが、最初の約半年間は、教師や生徒が笑っていても言葉がわからず、「先生の話すことが100パーセント分からない授業に出席し続けるのは地獄」だったと述懐している。

中学2年生の3学期になった1964年に日本に帰国。

日本の試験が○×式あるいは選択式であることにカルチャーショックを受けた。

ソビエト学校はすべて論述試験だったからである。

プラハの春 が起こったのは日本へ戻った後の、18歳のときだった。

同時通訳で活躍されていた方だけど、2005年に卵巣がんで56歳の若さで亡くなられた。

とても魅力的な方でエッセイもおもしろかったので、残念だ。


著者が9歳から14歳まで通ったプラハのソビエト学校時代に仲の良かった3人のその時代の話と、ソ連崩壊後に不安になって消息を訪ねたときの話が綴られている。


異国、異文化、異邦人に接したとき、人は自己を自己たらしめ、他者と隔てるすべてのものを確認しようと躍起になる。

自分に連なる祖先、文化を育んだ自然条件、その他もろもろのものに突然親近感を抱く。

この愛国心、愛郷心という不思議な感情は誰しも等しく心の中に抱いているはずだという共通認識のようなものがソビエト学校の教師たちにも、生徒たちにもあって、それぞれがたわいないお国自慢をしても、それを当たり前のこととして受け入れる雰囲気があり、むしろ自国と自国民を誇りに思わないような人間は、人間としては最低の屑と認識されていたような気がする。


「自国と自国の文化、自国の言葉を大切にしない人間は、軽蔑されて当たり前でしょう。」


誰もがいっぱしの愛国者だったソビエト学校に通ううちに、大きい国より小さい国、強い国より弱い国から来た子供たちのほうが、母国を想う情熱が激しい。

国が小さい分、その国に占める自分の割合が大きく、自分の存在によってその国の運命が左右される度合いが少しでも高そうな気がする方が、思い入れが強くなるのだろうか。

そして祖国が不幸であればあるほど、望郷の思い入れは強くなるらしい。


両親がギリシャから亡命し、兄はユーゴスラビアで、自分はルーマニアで生まれたリッツァは、まだ見たことのないはずのギリシャの空のことを、

「それは抜けるように青いのよ。」

と、誇らしげに何度も話していた。

フランスの植民地だったアルジェリア出身の少年は、毎日のように無線ラジオに耳を傾け、独立戦争の行方に一喜一憂していた。

内戦が続く南米ベネズエラから来た少年は、

「帰国したら、父ともども僕らは銃殺されるかもしれないけど、それでも帰りたい。」

とプラハを引き上げ密入国した両親、姉と共に処刑された。

生徒をかばった先生は、そのまま連れて行かれて拷問の末殺された。



日本は島国だから、大陸続きでいつ侵略されるかという恐れを抱くこともなく、ある意味守られている。

ソビエト学校に通う異国からの生徒たちのように民族紛争や政治、宗教などの違いからくるもろもろないさかいに巻き込まれることもなく、平和だから、よその国も、自分の国も、死をも、特別意識することもなかった。

アメリカによる戦後教育の洗脳もあるけれど、自国の歴史もきちんと教えられずに育ってきた。

私も自分の国を意識するようになったのは大人になってからで、この本に出てくる子供たちと同じような年齢のときに、自分の国に誇りを持ったり、この国に生まれてよかったなんて思ったこともなかったというか、そういうことを考えたこともなかった。


去年大きな震災が起きて、初めて自分の国を意識した人も多いのではないかと思う。

そして今起こっている領土問題は、改めてこの国の人たちが自分の国に意識を向けるきっかけになったんじゃないかなと思う。

よその国のことを知ると、自分の国が見えてくる。




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