昨日のおひさま
陽子が働き始めた事務所で、一緒に仕事をしている良子(紺野まひる)。
陽子とひと言も口を利かず、笑わず、子供が泣き出すたびに陽子はいたたまれない気持ちになる。
事務所はあと一人男性がいるのだけど、彼は子供が泣き出すたびにため息をついたり嫌な顔をする。
ある日子供が泣き出してまた彼が怒り出すと、良子が立ち上がって、
「いい加減にしてくれませんか
」
と言う。
陽子は、これ以上迷惑をかけるわけにはいかず、もう仕事を辞めなければと思うのだけど、良子は、
「いい加減にしてほしいのはあなたのほうです。
男のくくせに、グリグチグチグチと・・・
」
と男性事務員に向かって言い放ち、陽子をかばってくれた。
ああ、やっぱり本当に悪い人はいないんだな と思う。
彼女も陽子と同じ、出征前日に祝言をあげたのだけど、ご主人はとうとう帰ってこなかった。
やっぱり陽子のこと、うらやましいと思うでしょう。
「赤ん坊は誰だってかわいい」
「赤ん坊はいるだけでみんながしあわせな気持ちになれる」
と思われがちだけれど、子供が嫌いな人もいるし、ご主人が亡くなった人、欲しくても出来ない人からみたら辛いものだし、それが相手への憎悪に変わったり、傷ついてうつになったりする人もいる。
彼女は別にいじめたりするわけでもなく、ただどう接してよいのかわからなくて、仕事に没頭して忘れようとしていたのかもしれない。
人と比べているかぎり、しあわせはない。
しあわせは何かを基準とするものではなく、自分で感じるものだからだ。
良子さんは、たぶんそれはわかっている。
私は良子さんの冷静に人を判断したり、毅然とした態度はとても好きだ。
ただ、陽子も決して「赤ん坊なんだから泣いても当然」とか、「預けるところがないのだから仕方ないでしょ」とか、そんなこと全然思ってもいないけれど、でも、知らないで人を傷つけていることって、案外あるんだよね。
その人がそれを言うと一番傷つくと知って、わざとそこを責める人。
知らずに傷つける人。
雲泥の差があるけれど、傷つく立場としては同じ傷の深さ。
傷つけるほうは違う。
わざと言う人は、そのときはちょっとイジワルな気持ちになって、相手の態度を見て胸がすくかもしれないけれど、でもどこかでしっぺ返しがくる。
天に唾吐けば、自分に返ってくるからね。
知らずに傷つけた場合は、そのことに気づいたときはほんとうにいたたまれない気持ちになって、自分が嫌になる。
でも仕方ないよね。
その人の生きてきた背景なんて、誰にもわからないのだもの。
わからないから、何かあったときに自分ばかり被害者意識に陥ったりせずに、相手の立場になって考えてみるってことも、大事なことなのよね。