結果を待つ間も、日に日に体調が悪くなり、検査の際は院内を車椅子で移動することも多くなっていた。

主治医は、私の体調をみて遺伝子検査の結果が出る前に化学療法を始めたいと言った。私もそれが良いと思った。

しかし、上級医の判断により結末を待つことになった。

また、骨転移の部分に対してもすぐに放射線治療が始められるようにと、まずは坐骨からということで下腹部に十字の線が描かれた。
しかし、外部から週1で来ている放射線の専門医の判断で見送りとなった。一度照射したところにはもう放射線を当てることができない。私の場合、骨転移の状態からもまだ放射線治療をしないほうが良いとのことだった。

主治医の先生にも、相当焦りがあったのだと思う。



放射線治療の見送りが決定した日の夜、消灯後に主治医が小走りで病室にやって来た。

主治医 panさん、遺伝子検査の結果が出ました。
ALK陽性でした!!!

睡眠導入剤を飲み半分寝ていたので、私はすぐには状況が把握できなかった。

ALK(アルク)???
ああ、遺伝子変異が見つかったんだ…。

主治医は、詳しいことはまた明日話すから、おやすみなさいと、笑顔で去っていった。


朝になり、主治医から改めて説明を受ける。

主治医 昨日も少しだけお話しましたが、panさんには遺伝子変異があり、ALK融合遺伝子が陽性であるという結果が出ました。今晩から、アレセンサでの治療を開始します。

ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)は、比較的珍しいタイプの遺伝子変異だそうだ。非小細胞がんの3〜5%くらいに見られ、がんの横綱と呼ばれている進行が早いタイプ。どうりでどんどん具合が悪くなったわけだ。なんだかすべてが腑に落ちた。

それにしても、なんてものを作り出してしまったのかしら。私の体は。
不思議と恐ろしいという気持ちはなかった。
ただ、がん細胞を増殖させてしまうほど体調が悪かった自分の体を哀れに思った。

これから飲むアレセンサという薬は分子標的薬と呼ばれているもの。比較的副作用も少なく、とてもよく効くらしい。しかし、その病院には私以外ALKの患者がいなかったので、どのくらいの期間でどの程度効果が出るのか、具体的な話を聞くことはできなかった。

主治医は、研修医時代にひとりだけALKの患者の治療に立ち会ったことがあるそうだ。(治療当時)私より少し若い男性で、病気がだいぶ進行してほぼ寝たきりの状態だったが、アレセンサがよく効いて歩いて退院したと言っていた。

私にも効くのかな…
ボソっとつぶやくと、主治医は、私はpanさんにも絶対効くと信じていると言ってくれた。

分子標的薬、いずれは耐性がついてしまうもの。

子どもはまだ小学生。治らなくてもいい。
共存でいいから、少しでも長く行きたいです。
主治医にそう伝えた。

医学は進歩している。きっとこれから研究が進み、どんどん新薬が出てくると思います。私はそう信じています。

そう言ってくれた。
未来のことは誰にもわからない。
でも、その気持ちがとても嬉しかった。

後から看護師さんに聞いた話だが、とにかく検査結果を早く出して欲しいと、主治医の先生が病理部に働きかけてくれたそうだ。

主治医の先生にはもう感謝しかない。
他の検査の時も、最短で色々手配してくれた。

私が治療を開始できたのは、咳の症状が出てからちょうど半年後のことだ。レントゲンには写らないタイプだったおかげで、喘息と間違われてステロイド治療を受けたり、アレルギー性の肺炎を疑われたり、本当に色々あった。
今思えば、前の病院に紹介状を書いて貰ったのは、ある意味ギリギリのタイミングだったのかもしれない。あの時、無理にでも貰っておいて本当に良かったと思う。

でも、主治医の先生が他の人に当たっていたら、
もし精密検査を受けたのが他の病院だったら、
こんなに早く診断が付かなかったかもしれない。
おそらく、もっと進行してしまっていただろう。


私の命は、主治医の先生が救ってくれました。
いまこうして生きているのは、先生のおかげです。

本当にありがとうございました。