彼の話は自宅にかかってくる営業電話の
撃退方法だった。
勧誘の電話にうっかり出てしまったら
『両親が自殺して困っている』とか、
『失業していて食べるのに困っている』
そんな暗いネタで営業相手を交わすらしい。
彼の話を聞いていて正直言ってウンザリした。
わざわざそんな作り話をしなくても
普通に、毅然と断ればしつこく電話が
かかってくることもないはずなのに。
彼は、普段は正直になんでも話すのに
調子に乗って話す彼を見て、
いつまでこの話題を話し続けるんだろうと
幻滅した。
そういえば、この嘘話を書いていて
ふと思い出したことがある。
あの3年前の『今でも忘れられない彼』のこと。
彼からの連絡が途絶えはじめ、1ヶ月ぶりに
来たメールには
『海外赴任することになった』との内容。
出向中で、彼の仕事の役割上それはないと
思っていたが、その後パタリと
連絡が来なくなった。
3ヶ月後、仕事のため普段は滅乗らない沿線の
電車に乗ろうとしてホームを歩いているとき、
彼にはよく似た後ろ姿を見かけ、尾行し
同じ車両に乗り込んだ。
離れたところから様子を伺い、
彼だと確信した。
そして彼の席まで移動して挨拶をすると
彼はとても驚いていた。
『海外赴任したんじゃないの?』
と聞いたら、
『もうすぐ行く予定』と答えた。
『メール送ったのに』と言ったら、
『見てないな。どこに送った?新しい
メールアドレス送るよ』
彼はそう言ったが数日経っても何も
届かなかった。
私が目の前にいたからそう言うしか
なかったかもしれない。
嘘なんかつかなくても、はっきり
『もう会わないよ』って言ってくれた方が
良かったのに。
男の嘘は困りものだ。
正直そうな顔をして平然と嘘をつく。
相手への優しさなのか、傲慢なのか。
いつか家族に嘘がバレて痛い目にあうといい。