小さなバーやこじんまりした飲み屋にちょいちょい訪れていると、たまに奇跡の回みたいなのがある。
その日、そのバーにはマスターとチーフと私と常連客1名しかいなかった。
最初はいつも通り、マスターと常連さんが、チーフと私が、それぞれ小さな声で話しながら飲んでいたけど、気付けば4人で一緒に話していた。特に爆発的に面白い話題があったわけでもないのに、ただ何だかみんな機嫌が良かった。得も言われぬ良い空気がそこにあった。何を言っても楽しかったし何を言っても陽気だった。我々は4人でほとんど完全にハッピーな世界を作り出していた。
本当に久しぶりに、実に8年以上振りに、私は、ああ、この夜が続いたら良いのに、と願っていた。
かつては何度も何度も願った思い。あの人と過ごす夜が終わって欲しくなくて、楽しい時間が終わって欲しくなくて、私は何度も何度も、頼む、続け、続けこの夜、と願い続けた。
もう二度とそんなことを願うことは無いと思っていたのに、気付けば私は願っていた。ああ、この夜が続けばいいのに。と。
最後は、酒が無くなっていくのが悲しかった。それを飲み終わったら帰ろうと心に決めていたから、寂しかった。
空になったグラスをしばらく見つめ、迷ったけれど、私は帰った。あと1杯、と粘りたい気持ちもあったけど、やっぱり粘らず帰った。
なぜなら、絶対にその夜が続かないのを私は知っているから。
楽しい時間は必ず終わる。奇跡の夜も必ず終わる。
どんなに頑張っても粘っても、いつか必ず終わる。
それが寂しくて、私は、早めに帰った。そそくさと帰った。
楽しい時間は必ず終わってしまうから、次はもっと楽しいことがあると信じて終わるしかない、とあの人はよく言っていた。
なんだかやっと分かった、気がした。
どうかこのバーが潰れませんように。マスタとチーフが長生きしますように。常連さんも死にませんように、と。
願うよ。私は願う。願う。願う。願う。いつか全員死ぬのは分かっているけど。それでも願う。何度も願う。
家に帰ったら、あんなに楽しかったのに、良く分からない気持ちがこみあげてきて、私は久々にギャンギャン泣いた。
それは、何だか恐怖に近かった。楽し過ぎたのが怖くて、怖くて怖くて泣いた。あの人の名前を呼びながら泣いた。
泣きに泣いて、落ち着いたら、感謝の気持ちが込み上げてきた。
本当に、払うお金以上にもてなしてハッピーにしてもらって済みません。いつもありがとう。ありがとう、大好きです。
と、このブログを立ち上げた時に書いたことと、おなじことを、ここに書くよ。
ありがとう。変わらない人たちよ。ほとんど愛していると言ってもいい。そういう大切な人たちがいるという、ありがたさと、切なさ。死なないで、死なないで。どうか、死なないで。と、思い続ける切なさ。
