朝7時、目が覚める。前日は夜中まで友人と話し込んでしまったため、存外早い起床に驚いた。布団の中で日課であるSNSの更新確認をしているところ、部屋の扉が叩かれる。

ノックの音で全てを悟る私の確認は「10分?」の一言で済ませることが多い。勤務先への送迎を所望する姉の返答もまた「お願いします」の一言であった。

 10分、というのは家を出る時間を指し、私は当然10分に車を発進させるだけの用意を済ませるが、実際に車に乗り込む時間は5〜10分遅れる事が多い。

原因として一番大きいのは時間の余裕の無さを顧みず、優雅にコーヒーを準備していることであろう。私の分も用意するだけの思慮は持ち合わせているため目を瞑るが、車内に残されたタンブラーの処理をするのも当然私、と言うことになる。


 姉は自己管理能力のムラが激しい。中学まで優等生を演じ切り、華々しい高校生活をスタートさせた。

私はその生活に憧れて同じ高校という進路選択をした事を否定できない。(自称ともされるが)進学校である高校の勉強に次第についていけなくなり、結果的に女子大に進学することとなる。大学受験はセンター試験以外の筆記試験を受けていないとの噂もあるが、真偽は定かでない。

 女子大学とあり、周りにはいわゆるお嬢様が多かったようで、彼女の選んだ友人はその最たるものであったと見受ける。当然そのような人と付き合うのに最低限取り繕うべき装いと言うものは高い水準が求められ、それを果たした姉のには学ぶものが多い。が、彼女の部屋は引くほど汚い。部屋に収まらないモノが居間に山を構成するほどに。

 送迎の車内で、知人宅から引越しに伴って大量の私物が送られてくる旨を聞いた。山は自宅にすら留まっていなかったのだ。そのやり場を想像すると目眩がしそうなので、私はハンドルを握る手を強めることしかできなかった。そんな姉も、装いは一級なのである。




 家に帰るとAmazonから荷物が届いた。置き配指示は特にしなかったため直接受け取った。ゲーム周辺機器を購入したので、その確認を含めて弟とマリオカートを始める。


 待機時間中、不意に弟が「もう家出なきゃじゃね」と呟く。時間を気にしつつリモコンを離さない弟に、答えを知りつつ「もうやめる?」と聞くとやはり「もう1レースだけ」と答えた。そんな弟が好きだ。



 昼食のため自室から居間に移動した私に、母が「グラタンでいい?」と聞く。私はチーズの焼ける匂いを感じ、肯定する。既にグラタンは完成している、という事である。この疑問文が確認であるのか、その他の選択肢が用意された質問であるのか、あるいは最後通告であるのか、私の知るところではない。が、ゆがんでいる。そんな事を考えつつ、ジュースを冷蔵庫に入れるため保管している部屋に移動した。

 居間に戻るとチーズの他にも強い匂いを感じ、食卓に目をやると餃子が並んでいた。揶揄を込め匂いが飽和しているね、と話しかけると、コーラ?と聞かれた。文脈から判断していただきたいものではあるが、高卒の母には高度であっただろうか。それとも、揶揄を感じ取った上でのすっとぼけであるのだろうか。

 食後、コーヒーを飲むか聞かれた。飲むつもりであったため、先手をうたれてしまったことに落胆した。コーヒーを淹れるセンスというものがあるとするならば、母はそれに欠けている。「濃さは?」と聞かれたので、毎回ドリップとは思えない濃さのコーヒーを淹れる事を鑑み、「薄めで」と答えた。が、結果は特に代わり映えしない。思わず「同じ豆・器具でもここまね違う味がするものか」と呟いてしまう私。これは問題なく聞き取れてしまった母は「美味しくなかった?」と尋ねる。

私は声の大きさを反省しつつ、「父の淹れるコーヒーは美味しい」とその絶対差をもって相対差を煙にまいた。