取引先の方とのメールのやりとり。イミ不明状態に陥りかけたので、こちらの意図はこうなので、可能であればそちらにはこうしてほしい、とちょっと丁寧なメッセージを送った。少しして電話が入ったので、あの件だな、と思ったが、他の仕事をしていて出られず、30分後にコールバックした。

 「先ほどは電話に出られず、失礼しました」

 「いえ、折り返しありがとうございます」

 この後の相手の言葉に、目が点になった。

 「今、お時間よろしいでしょうか?

 …。ですからぁ、さっきはお時間よろしくなかったから応答せず、今はお時間よろしくなったので電話したんですけどぉ。そう屁理屈コネても時間の無駄なので、シンプルに「はい」というと、「どうもありがとうございます」 このやりとりでタイムロス6秒

 

 突然かかってくる不動産の売り込み電話で「今、お時間よろしいでしょうか?」と訊かれるなら、わかる。ずっとメールをやりとりしていて、電話で話さなきゃいけない状態になったから、電話してるんだよね。

 この質問をするTPOを完全に誤っている。っていうか、質問の意味を理解していない。電話かけたときの「枕詞」と勘違いしているのか。っつーか、電話かけたの、私のほうなんですけど!?

 

 似たようなケースに、会議時に相手の意見に対してコメントや質問をする前の「貴重なご意見ありがとうございました」という「枕詞」がある。特に、反対意見や手厳しい質問をする際は、いきなり直球を投げるよりも、まずやんわりと枕詞を入れましょう、とコミュニケーション研修で伝えている。

 「特に若手メンバーや部下には、意見を述べてくれたこと自体に感謝しましょう。シニアの前で意見を言う勇気をふり絞ってくれたのですから」

 つい先日、学会の勉強会のQ&Aセッションでも頻発したが、相手は見ず知らずの教授だし、週末に時間を使ってくださっていることへの感謝やリスペクトの言葉は、自ずと口をつく。

 が、しかし、既に付き合いがあり、しかも上下関係のないフラットなメンバー同士のブレストなどで、「ありがとうございました」の応酬は時間の無駄ではないか。しかも、本当に有難い意見が出されたときの「ありがとう」と見分けがつかなくなり、かえって妙な忖度にさらに無駄な時間を使うことになりかねないのではないか。

 

 他者に対するリスペクトは、とても大切である。だが、世の中が人に優しくなりすぎて、相手を傷つけないよう、阻喪のないよう、言葉尻を捉えられて攻撃されることのないよう、意味のない「枕詞」が反乱しているように見える。

 辞書を引くと、「枕詞」は「ある種の情緒的な色彩を添えたり、句調を整えたりする」ために用いられるという。

 リスペクトと情緒は、異なる。相手を本当にリスペクトするなら、こちらからかけた電話に「お時間よろしいでしょうか?」と訊くより、明快なメールを書くよう配慮することに時間を使ってほしい。

 

 「枕詞」ではないが、最近よく聞く「それではカイギをハジめさせていただきたいというふうにオモいます」といった長ったらしい発言。「句調」を整えるどころか、字余りもいいとこ。「ではカイギをハジめます」で十分じゃないですか? 31字を11字に縮めたほうが、すっきりしませんか?