研修のグループワークでは、話し合いの見える化のためにホワイトボードを使ってもらうことが多い。
 先日、グループを回りながらメンバーがホワイトボードの前に集まって喧々諤々する姿を観察していると、ボードに書かれた文章が尻切れトンボ。尋ねると、「いや、あの、カクトクっていう字が…」 マジックペンを手に取り、「獲得」と書く。「あ~、ケモノ偏でしたねー」と尊敬の視線を一身に受けて、ちょっと得意になった。ケモノ偏というコトバが出ただけでもよしとしましょう、なんてね。
 全員で議論をまとめる段になると、作業効率重視。PowerPointをプロジェクターに大写しにして、メンバーが話す内容を私が片端から入力していく。「純正社員」と書いたら、「あ、その純じゃなくて…」「???」「あの、あれ」…ああ、と気づき、「準正社員」と書き直す。

 PCやスマホの普及で、手書き文字を書く機会が激減し、ましてや自分の字を他人の面前に曝すことなど、ほとんど皆無となりつつある今日この頃。効率を考えたら、手書きよりもPC入力のほうが余程速い。漢字を書くどころか、文章までAIさんが創ってくれちゃう世の中だ。

 昭和な世代にとっては寂しいけれど、いちいち漢字を手で書くなんて、もう時代遅れなのだろうか。
 そう思っていたところ、朗報に出合った。

 臨床心理学を専門とする京都大学医学部特定助教の大塚貞夫氏他の研究論文によると、漢字に関する能力の中でも、漢字を書く能力だけが、言語的知識(言葉の意味を書く・話す、算数の問題を耳で聞いて口で答える等)を高め、それが文章作成能力の高さにつながることが明らかになった。漢字を読んだり、意味を理解する能力では、そうした効果がみられなかったという。
 「文章作成能力」は、Computerized Propositional Idea density Raterというプログラムで自動的に定量測定する方法が採られている。Idea density(意味密度)とは、分かりやすく乱暴にまとめれば「語句を意味なくだらだら使うのではなく、意味のある語句を選んで、冗長でない意味のある文章を作る」ことのようだ。

 やっぱりねー。そうだよねー。文章力、落ちてるよねー。
 会社員時代、副社長御自ら赤ペン先生をしていただき、そのご恩送りにと、後進たちのレポートを真っ赤っかにした身としては、今日日、育成責任もない他社様の他人様の文章が気になって仕方がない。
 書き言葉だけでなく話し言葉でも、意味もなく冗長な言葉が闊歩している。
 「そうしましたら、カイギのほうをはじめさせていただきたいというふうにおもいます(38字)
 「ではカイギをはじめます(11字)」で終わるのに。
 それもこれも、漢字を書かなくなったことが一因なのかもしれない。

 私の周りでは、PCやスマホが駆使できても、アイデア出しや一人ブレストのときは手書きで紙に書く、というタイプが、同世代はもちろん若い世代にも少なくない。
 かくいう私も、かなりの手書き派である。一人ブレストはもちろん、会議メモは基本手書き。しかも漢字がわからないと後でスマホで調べて手書き追加。日記ももちろん、お気に入りの「LIFE NOBLE NOTE SELECTION」5㎜方眼フォーマット(写真)に手描き。
 大人になっても、漢字練習、続けましょう。
 

 地下鉄で、隣に座った小学3年生くらいの男の子が、膝の上に広げたノートの大きなマス目に松・松・松・松…と、書き並べていた。
 懐かしい。まだこの昭和な(否、江戸時代の寺子屋からか?)訓練は現役だったんだ。あれが、文章作成能力を育んでいたのか。のみならず、地道な繰り返しの大切さ、継続は力なり、努力の積み重ねが自信につながる、ということを身体に覚え込ませる貴重な体験だったと思う。
 繰り返します。大人になっても、漢字練習、ぜひ続けましょう。