とある熟達エンジニアA氏とぶっちゃけトークをしていて、相手の超ぶっちゃけ発言にのけぞってしまった。
 「結局モノづくりっていうのは、センスとインスピレーションなんだよ。
それがないヤツは、ダメだな
 そ、そんなぁ~。センスもインスピレーションも、基本的には持って生まれた才能じゃないですか? それがないとダメだなんて、この世に生まれた瞬間に烙印押されちゃったみたいで、しょんぼり、がっくり肩が落ちる。

 そういえば、似たようなセリフを最近どこかで見たな、と記憶をたどって、思い出した。今を時めくAI研究者、
松尾豊氏のインタビュー(@6月11日付日経新聞夕刊)である。

 松尾氏は、自分が「起業家としては成功しなかった」理由として、次のように公言している。
 「人を励ますのが下手なのです。(中略)事業をやると、ダメな人でもほめなくてはいけない場面がでてきます。僕は
良くないモノをどうしても良いと言えないのです」
 あまりの率直さに、わははっっっと、思わず大口開けて笑ってしまう。こちらも、ぶっちゃけ発言である(しかも、全国紙上)

 しかし、笑ってばかりはいられない。
 良くないモノは良くない。ダメな人はダメ。…!?
 日頃、衆生を率いる世のリーダーたちに「
どんな人にも『強み』はあります」「その強みを発見して、褒めてあげましょう」と説いて回ることを生業とする我が身としては、胸に手を当ててよーく考えないと、商売ネタがなくなってしまう。

 わかった。A氏と松尾氏の発言、要は「“ダメ”の“ハードル”」の問題なのだ、というのが私の解釈。
 彼らはモノ作りやAIという先端技術領域のピンのピン、を基準に考えているのである。ピンとして備えるべき能力やスキルレベルをがしっと打ち立て、そのハードルをクリアできないヤツは「ダメ」。世の中の平均的ハードルの高さが50cmのところ、彼らのハードルは100㎝。95㎝をクリアできる世間的優秀者であっても、彼らにとっては「ダメ」なのだ。

 その仕事の達成に求められる能力レベルを明確にして、それを満たせるかどうかで評価する。最近はやりの「
ジョブ型」の極みと言えよう。
あくまで100㎝越えの物差しを死守し、決してそのレベルから妥協せず、物差しに合ったメンバーだけを選りすぐる。その場合、自ずと少数精鋭メンバーしかジョインできないことになり、規模の大なりを追う組織編制は、諦めなくてはならない。
 だから、松尾氏は自らが起業家になることは諦め、ピンの研究者を集めて100㎝のハードルを120、150と上げていく道を選ばれたのであろう。

 一方A氏は、まとまった設備投資を必要とするモノ作りをしたいので、少数精鋭の小世帯ではモノ作りの夢はかなわない。だから、いわゆる大企業に留まっている。少数精鋭どころか、毎年何十人・何百人もの多様な新卒社員がぞろぞろ入ってくる。人事部がふるいにかけるとはいえ、職務分掌が明確なジョブ型というより、基本は
メンバーシップ型。スキルレベルも、ピンばかりではなかろう。
 「10㎝の人でも褒めて教えて手をかけて、まずは20㎝飛べるように育てていかざるをえないでしょう?」と尋ねると、

 「それじゃあ100のものを創るのに、5人必要になる。それだけのコストをかけたら、その分利益が減ることになる」

 たしかに。大企業では、持てる人的資源をできるだけ活用し、組織としての成果レベルを調整(妥協?)しつつ頑張るしかない。言い換えれば、メンバーシップ型は、コスト増を吸収する財務的余裕のある、あるいは「○○部門が無理なら、●●部門に回そう」といった部署間異動をする人的余裕のある、大組織ならではのシステムかも。
 「どんな人にも『強み』はあります」「その強みを発見して、褒めてあげましょう」というアプローチは、ある意味、従来型メンバーシップ型組織の心得なのだろうか。。。


#余談:
「ジョブ型」「メンバーシップ型」っていう呼び方、実はとっても違和感がある。
ジョブ型じゃないタイプは、ジョブ=仕事してないみたいだし、
メンバーシップ型って、ただのお友達サークルみたいな印象。