ちょっと悲しいことがあった。
とある異業種間勉強会。論語をネタにして、ビジネスの場における「人間の見極め方」について議論していたときのこと。

日本電産は「早飯」かどうかで新卒採用してたそうだが、「せっかち」は「社長の条件」か。
大企業は主流派エリートに「危ない橋」を渡らせないのが鉄則だが、修羅場をくぐってないトップはダメだ。
皆が言いたい放題していたとき、マーケティングコンサルが、一見全然ちがう話を始めた。

デジタルマーケティングの世界では、ネットやAIの進歩により相当精密な「ターゲティング広告」が出来るようになってきている。
今や「へたな鉄砲」ではなく、買いたい人が買いたいときにだけ広告をうって、即買わせる、という効率的なやりかたをいかに実現するか、が勝敗を決める。
だから、人事評価も、全社員の過去のパフォーマンスを全部データ化するようになって、AIがその人の将来の成長性も、特定のポジションに必要な人間のスペックも判断するようになる。AIにマッチングさせれば客観的な最適解を出してくれるはず。 
これからの人事はそのくらいのこと考えたほうがいいんじゃない?

えぇ~っ。そこまでAIにやらせちゃうわけ?
これまで何度も中途採用面接をやってきて、相手の強みや個性はもちろん、わが社のカルチャーに合うかどうか、メンバーとうまくやっていけるかどうか、「直感」を総動員して判断していたっていうのに。
でもたしかに、少なくともその人のスキルや能力は、過去のパフォーマンスや言動をぜーんぶデータ化して分析すれば、客観的な測定結果がぴょんと数値で表せる、かもしれない。
そういえば、オフィス家具会社の展示会の「将来の会議室」では、出席者の発言内容や声の調子や表情をすべてデータ化して、会議が発散ステージなのか結論に近づいているのか判断して、その都度最適なファシリテーションサポートをする、なんていうデモをしていたっけ。

あらゆるものが、データ化できる世の中なのだ。
データ化できてしまえば、無尽蔵の記憶力と分析力を持つAIが、0101をぐるんぐるん回して、傾向を読み取って仮説検証を繰り返して、客観的ロジックに基づいた冷静な結論を吐き出すのだ。

でも、私がやっているメンタリングは、クライアントのその人がその瞬間に口にした言葉、浮かべた表情を出来る限りの傾聴姿勢で読み取って、いちばん適切と思われる質問を投げかけて、直感120%発揮して、一期一会のコミュニケーションを図っている…つもりだけれど。
「でも、あらゆるメンタリングの質問と答えを全部データ化すれば、AIのほうが適切な質問をするかもしれませんよ」
ぐわん。

でもでも、的確な質問、というだけじゃなく、時に優しく、時に厳しく励ましたり、そういう感情の交流、ってものがあるでしょう。
大体、AIなんて機械が言うことを、人は信じられるものなのか?(単なる感情論だけど)
「でも、高1の双子の息子に訊いたら、『上司とか言ってヘンな感情的なおっさんの言うこと聞くより、ロボットのほうがいいかも』って言ってましたよ」
ぐわんぐわん。

血の通った温かなメンタリング…が「ヘンな感情的なおっさん」呼ばわりされぬよう、技を磨かねばならない。
でなければ、ネットネイティブ世代が社会人になる前に、引退せねばならない。
なんとなく、悲しい。