朝、ソファーでうたた寝していると、妻が「合格しましたって1人来てるよ!」とけたたましく言いに来た。
「えっ!」と驚いて飛び起きた。
突然の事で心臓がドキドキしている。
今日は警視庁警察官採用試験III類の合格発表があったようだ。
「パパ早く!」と急かす妻。
慌てて向かい合って座ると、妻が「飛田給に向かう電車の中で会った方だって」と言った。
「電車の中?」すぐに誰か思い出せなかった。
記憶を辿ってみた。
そういえば私達は、息子が警視庁警察官採用試験に合格した後、警視庁警察学校を一目見ようと京王電車に乗ったのだ。
新宿駅始発の高尾山口行きの電車に乗り出発待ちだった。始発で車内はガラガラの状態。
「何人か乗ってる」と妻が言い出した。もちろん私には見えない。
いつもの事なので気にせずに座った。
間も無く電車が走り出した。
警視庁警察学校最寄りの飛田給駅に着くまで、私達はワクワクしていた。
「警察学校はどんな所だろうね」
「合格したからこそ見に行けるね」などと会話していると、妻が急に無口になり、一点を見つめて時折うなずいている。
「誰かと話しているな」とピーンときた。
しばらくして、「息子さん警視庁警察官採用試験に合格されたんですか?」って若い男の子2人が聞いてきたと妻が言った。
「でもなんだか変なんだよね。僕達も合格を目指してるのですが、何度受けても受からないんですって言うの。何だろう?」と首をかしげた。
「死んでる人達ではないの?」
「そうだと思ったんだけど、どうやったら合格出来ますか?とか普通に生きてる人みたいに聞いてくるんだよ」
生きてる人みたいに…。私もよく理解できなかった。
「でも、なんだかとても苦悩して困っているみたいだよ」
状況はよくわからなかったが、困っていると聞いて、何故か放って置けなかった。
「歳はいくつなの?」と突然私が話しかけたので妻が驚きつつも通訳した。
「23歳です。今まで4回採用試験に落ちています。どうしても警視庁警察官になりたいんです」
「25歳です。僕は今まで5回採用試験に落ちてます。僕もどうしても警視庁警察官になりたいんです」と彼らは言った。
死んでる人達かもしれないけれど、生きてる人として答えてあげる事にした。
「絶対に警視庁警察官になるんだ!という熱い思いを持ち続ける事が大切だと思うよ」それだけを彼らに伝えた。
「ありがとうございます。次の試験は絶対に合格します!」と言って彼らは消えて行った。
その時は、何が何だかんだよくわからなかったが、実はその時から「心」たちとの交流が始まっていたようだ。
彼らは死んでいる人ではなく、ここにやって来る「心」たちと同じだったのだ。
私は今になって、ようやく理解した。
「君はあの時の1人だったんだね」
「はい。あの時は本当にありがとうございました。あれから力が湧き、諦める事なく合格を勝ち取る事が出来ました」
私の少ない言葉に奮起して、わざわざ合格の報告に来てくれた事に胸が熱くなった。
「おめでとう。本当に良かったね。よく頑張った。」と労いの言葉をかけた。
「ありがとうございます」
彼は合格までの話をし始めた。
つづく。。。