父良則が亡くなって、母恵子の生活が露わになった。

他の男との逢瀬・・・


後に成人した竜司はこう言っている。

「無理もないんだよな。親父は中気(脳出血後に残る 半身の不随)で

 入院ばかりしてたし、東京の病院にも入院してたからお袋の相手なんて

 全く出来なかったからな。お袋も若かったし・・・」と、自分の母親故か

理解は示していたものの、主婦に対して偏見を持つようになるのである。


通夜、告別式と恵子は冷たい視線を向けられ、肩身の狭い思いを強いられた。

それは親戚に限らず、近所の人達の好奇の目にも晒された。

喪主にも関わらず蚊帳の外で打ち合わせ等々は完全に叔父の正雄が

取り仕切り、口を出すこともままならなかった。

良則が亡くなった日、一人親類縁者に取り囲まれ返す言葉も無かった

恵子に正雄が強い口調で言った。

「籍、抜けや。離縁だ。」

「・・・・・」恵子は無言だった。

「お前が前の女房の幸江を追い出したんだろ。」

「いえ、違います。幸江さんとはお会いしたことはありません。」

「ふん、どうだか。今すぐにでも籍抜いてくれ。」

「それは・・・できません。竜司がおりますから。」

「竜司も良則の子だかどうだか・・・」

「竜司はあの人の子供です。」

ずっとうつむいていた恵子が顔を上げ、キッと正雄を睨んだ。

すると正雄の妻順子が

「ま、その話は今すぐでなくても・・・葬式終わってからゆっくりと、ね。」と

その場を収めた。


順子は知っていた。

良則の前妻幸江が追い出されたのではなく、自ら出て行ったことを。



幸江が出て行く少し前、順子は幸江の家を訪れた。

「幸江さ~ん、居る?ウド取ってきたから食べて。」

順子が家に上がりこむと幸江は顔を逸らした。

順子が幸江を覗き込むと目が晴れ上がり、口元が切れていた。

「どうしたの?」順子が聞くと

「ちょっと・・・転んだだけ・・・」

「どこで?転んだだけでそんな顔にはならないわ。ちゃんと説明して。」

「・・・・」

「良則さんね。そうでしょ。良則さんに殴られたんでしょ。」

「・・・お願い、誰にも言わないで・・・」

そういえば、前にも痣を作っていたことがあった。

「いつから?今日だけじゃないでしょ。」

「・・・うん・・・もう何年も前から。」幸江は消えそうな声で言った。

「何年も?」

「うん、ここに嫁いで来て少し経った頃から・・・」

「ええ?そんな前から?」

「あの人、お酒飲んで自分の気に入らないことがあると怒るの。

 最初は文句言ってるんだけど、そのうちお皿投げたりして・・・」

順子は驚いた。

そしてやっぱり・・・と思った。

正雄から良則は昔から気性が荒く、喧嘩っ早いと聞いていたので

幸江に手を出さなければいいのだが・・・と心配をしていた。

「健一は?健一に手を出してるんじゃ・・・」

健一とは良則と幸江の4歳になる長男である。

幸江は昼寝をしている健一に目をやり

「うん・・・」と曖昧に返事をした。

ハァ~、出してるんだ。

順子は溜息をついた。

女子供に手を上げるなんて・・・

長い沈黙の時が過ぎ、そろそろ帰ろうと腰を上げた時幸江がポツリと

「もう・・・ダメかも・・・」と独り言のように言った。

「え?なに?」順子が聞き返すと

「ううん、なんでもない。ウドご馳走様です。」

「じゃあね。何かあったらすぐ連絡してね。」と言って順子は帰った。

2週間後、幸江は健一を連れて家を出た。



3ヵ月後、恵子が良則の家に来たのである。


正雄たちとあまり交流のない良則。

幸江が家を出たことや恵子を後添えとして迎えたことなどを自ら

話すことはなく、随分経ってから正雄たちは知ったのである。

経緯なども一切言わない良則。

それが、正雄たちには誤解されてしまい恵子が追い出したと

思い込むことになるのだが。





つづく