しかし慣れとは恐ろしいもので、だんだんと不幸を売ることにも慣れていきました。
少女から不幸を買う度におかしくなる客を見ても、何も感じなくなっていました。

しかし、実際のところ、少女自身の環境も苛酷であったため、
自分自身だけでも精一杯なはず。他人の心配などしている方がおかしいのです。

そして、ある日、おじさんは少女を呼び出し、こういいました。
「今日から違う場所で不幸を売るんだ」

少女にとって、それは既に問題でもなかった。
いや、おじさんなら有無も言わせないだろうと考えていたので、
抵抗することさえ頭にはありませんでした。

しかし、そこで不幸を売り始めてから、少女の環境は激変しました。
豪華な部屋に贅沢な食事。
そして自由。

おじさんは少女の抵抗が無くなったことで、最後のダメ押しに入ったのでした。
「お前がもっと頑張れば、もっといい環境に置いてやる。」

今までとは比較にならないほど満ち足りた環境。
食べる事ができるだけでも幸福。せめて人間らしい心だけは失うまいと
ひたすら耐える日々を過ごしてきた少女にとっては

その満ち足りた日々の方が逆に堪えました。
「おじさんの命令を拒否すれば、またあの生活に戻るのだろう」

それまで、当り前のように過ごしてきた日々だったのに、
急にそれが恐ろしく、まるで地獄のように感じてしまうのでした。

逆に、もっとおじさんに服従すれば、もっと幸せになれるかもしれない。
それが幸せなのかどうか、少女に考える余裕はありませんでした。
「それまでの生活と比べれば、幸せなのは間違いない」
それについては疑う術を持ちませんでした。

続きはまたこんど。おやすみなさい