妻が僕と話さなくなってから。

 

 

僕なりに考えました。

 

「仕事ばっかりじゃダメなんだ。」

 

「家事を手伝えばいいんだ。」

 

そう思ったんです。

 

 

だから休日は、

 

洗濯物を干したり。

食器を洗ったり。

子どもを公園へ連れて行ったり。

 

自分なりに頑張ってみました。

 

 

妻は、

「ありがとう。」

と言ってくれました。

 

少し笑ったようにも見えました。

 

 

僕は安心しました。

 

「これで大丈夫かもしれない。」

 

そう思いました。

 

 

でも、

何も変わりませんでした。

 

妻は相変わらず、

僕と目を合わせませんでした。

 

必要なことだけ話して、

また静かになる。

 

笑顔は子どもたちに向けるものになっていました。

 

僕には向けられませんでした。

 

 

家事を手伝えば、

元に戻ると思っていました。

 

優しくすれば、

元に戻ると思っていました。

 

でも、

何かが違いました。

 

 

僕は、

何を間違えているんだろう。

 

そう考えるようになりました。

休日の朝でした。

 

僕が目を覚ますと、

 

もう子供たちは朝食を食べ終えて

リビングで遊んでいました。

 

 

ベランダにはもう洗濯物が干してあって、

妻は食事の片付けをしながら

昼食の準備もしていました。

 

時計を見ると、

九時を少し過ぎていました。

 

僕は、

楽しそうに遊ぶ子供達を見ながら、

 

コーヒーを淹れて、

ゆっくり朝ごはんを食べていました。

 

 

その日の夜。

 

子どもたちが寝たあと、

妻がぽつりと言いました。

 

「たまには、ゆっくり寝たいな。」

 

僕は、

深く考えませんでした。

 

「もう少ししたら大丈夫じゃない?

小学生になると、休みの日は自分たちで起きてくるって聞くし。」

 

そう答えました。

 

 

妻は、

 

「そっか。」

 

とだけ言いました。

 

 

また別の日。

 

洗濯物を畳みながら、

妻が笑って言いました。

 

「たまには、一人になりたいなぁ。」

 

僕は冗談だと思いました。

 

「じゃあ今度、美容室でも行ってきたら?」

 

そんなことを言った気がします。

 

 

妻は、

「うん。」

と笑いました。

 

それ以上、

何も話しませんでした。

 

 

あの頃の僕は、

 

妻が言ったことに、

ちゃんと返事をしているつもりでした。

 

だから、

ちゃんと会話もできていると思っていました。

 

 

でも今になって、

あの言葉を何度も思い出します。

 

 

「たまには、ゆっくり寝たいな。」

 

「たまには、一人になりたいな。」

 

 

 

あれは、

ただ思ったことを口にしただけだったんだろうか。

 

それとも、

僕に伝えたかった何かがあったんだろうか。

 

 

その答えを、

僕は聞こうともしませんでした。

その日は、

子どもを寝かしつけながら、

僕も一緒に寝てしまいました。

 

仕事が忙しくて、

毎日帰るのも遅かった頃です。

 

気づくと喉が渇いていました。

 

 

時計を見ると、

夜中の一時。

 

静かな家の中で、

小さな物音が聞こえました。

 

 

カチャ。

 

カチャ。

 

台所でした。

 

 

「まだ起きてるのか?」

 

そう思ってリビングへ行くと、

 

妻が立っていました。

 

電気は一つだけ。

 

シンクの前で、

黙って何かをしていました。

 

 

「まだ起きてたの?」

 

僕が声をかけると、

少し驚いたように振り返って、

 

「起こしちゃった?」

 

と笑いました。

 

 

「何してるの?」

 

「明日の準備。」

 

 

そう言って、

また手を動かし始めました。

 

 

幼稚園の連絡帳を書いて。

 

子どもたちの水筒を並べて。

 

お弁当の下ごしらえをして。

 

食器を拭いて。

 

シンクを磨いて。

 

 

僕は、

「そんなの明日でいいじゃん。」

そう言いました。

 

 

妻は、

「朝はバタバタするから。」

そう笑いました。

 

 

その笑顔を見て、

僕は安心しました。

 

 

「あぁ、大丈夫なんだ。」

 

そう思って、

 

「じゃ、おやすみ。」

 

と言って寝室へ戻りました。

 

 

 

今思えば。

 

あの日の妻は、

何時間寝たんだろう。

 

 

朝、僕が起きた時には、

もうお弁当はできていました。

 

子どもたちは朝ごはんを食べていて、

妻は洗濯機を回していました。

 

 

僕は、

 

眠そうにコーヒーを飲みながら、

「昨日、遅くまで起きてたのによく起きられるね。」

そう言いました。

 

 

妻は笑って、

 

「慣れてるから。」

 

と言いました。

 

 

その言葉を、

僕はそのまま受け取りました。

 

「慣れてるなら、大丈夫なんだ。」

そう思っていました。

 

 

でも今は、

あの夜の台所を思い出すたびに考えます。

 

 

「慣れてるから。」

 

毎日、あんな生活だったんだろうか。

 

あの日、

僕が見ていたのは、

笑っている妻だった。

 

でも、

本当は何を見ればよかったんだろう。

人は、

毎日あるものには、

慣れてしまうんだと思います。

 

 

朝起きる。

 

顔を洗う。

 

歯を磨く。

 

 

それと同じように、

 

僕の毎日にも、

"当たり前"がありました。

 

 

朝起きると、お弁当がある。

 

仕事から帰ると、夕飯がある。

 

洗面所へ行くと、新しいタオルが掛かっている。

 

ゴミ箱には、新しい袋が掛けられている。

 

子どもたちは、翌日の準備まで終わっている。

 

 

僕は、

それを一度も不思議に思ったことがありませんでした。

 

 

ある日。

 

会社で昼休みに、お弁当を開けました。

 

同僚と他愛もない話をしながら、

 

「今日のお弁当、なんか茶色っぽかったね。笑」

 

そんなLINEを妻に送りました。

 

 

深い意味なんてありませんでした。

 

いつもの軽口です。

 

 

しばらくして返ってきたのは、

「ごめんね。」

その一言だけでした。

 

その時の僕は、

「そんな謝ることじゃないのに。」

そう思っただけでした。

 

 

家に帰っても、

その話はしませんでした。

 

翌日も、

またいつも通り、お弁当がありました。

 

 

休みの日もそうでした。

 

僕が起きる頃には、

妻も子どもたちも家にいないことがありました。

 

 

「どこ行ったの?」

 

そう聞くと、

 

「公園。」

 

とだけ返ってきます。

 

 

昼前になると、

子どもたちの笑い声と一緒に帰ってくる。

 

泥だらけの靴を洗って、

 

洗濯機を回して、

 

お昼ご飯を作って。

 

午後には買い物へ行って。

 

夜にはまた夕飯を作る。

 

僕はソファで子どもたちと遊んでいました。

 

「今日は楽しかった?」

 

そう聞くと、

子どもたちは嬉しそうに公園の話をしてくれました。

 

 

でも、

妻がその日どう過ごしたのか。

 

僕は一度も聞いたことがありませんでした。

 

 

きっと、

全部、

当たり前になってしまっていたんです。

 

だから、

 

妻がどんな思いで、

どんなふうに休みの日を過ごしていたか。

 

考えることはありませんでした。

今思えば。

 

妻は、怒っていたわけじゃなかった

気がしています。

 

でも当時の僕は、

そう思うことすらありませんでした。

 

 

だって、怒るなら怒るで、

何か言うと思っていたからです。

 

 

文句を言うとか。

 

責めるとか。

 

泣くとか。

 

喧嘩になるとか。

 

そういうものを想像していました。

 

 

でも妻は違いました。

 

何も言わなくなったんです。

 

最初は、本当に小さな変化でした。

 

 

仕事から帰って、

「ただいま。」

と言う。

 

返事はない。

 

でも、夕飯はできている。

 

子どもたちはテレビを見ている。

 

妻は黙って食器を並べている。

 

 

「あれ、聞こえなかったのかな。」

 

そのくらいにしか思いませんでした。

 

 

朝も同じでした。

 

「行ってきます。」

 

返事はない。

 

 

でも、お弁当は玄関に置いてある。

 

ネクタイを締めながら、

「ありがとう。」

 

そう言うと、

小さくうなずくだけでした。

 

 

その頃の僕は、

仕事が忙しかったんです。

 

朝早く家を出て、

帰る頃には子どもたちは眠そうで。

 

休日も、

疲れて昼近くまで寝てしまうことがありました。

 

でも、それが普通だと思っていました。

 

 

家族のために働く。

それが僕の役目。

 

そう思っていました。

 

 

だから、

妻が何も言わなくなったことよりも、

仕事のことで頭がいっぱいでした。

 

 

当時のある日の夜。

 

妻が上の子の習い事の送迎に行かねばならず、

バタバタとしていました。

 

僕は在宅勤務の日で、

休憩でリビングに降りたんです。

 

 

その時に、妻がこう言いました。

 

「お迎えに行っている間、下の子を見ていてくれない?」

 

 

僕は何も考えずに、

 

「今日は仕事が立て込んでるから無理だよ。」

 

と返しました。

 

 

「そっか。わかった。」

 

それで会話は終わりました。

 

 

今思えば、

妻はあまり文句を言いませんでした。

 

でも、

そのころから妻は、

少しずつ言葉を減らしていたのかもしれません。

 

 

そして、だんだんと

 

返事がなくなって。

 

笑顔がなくなって。

 

目が合わなくなって。

 

 

「そのうち戻る。」

そう思っていました。

 

そして気づけば、

 

妻は僕と、

ほとんど話をしなくなっていました。

 

 

それでも、

 

毎朝お弁当はありました。

 

夕飯も並びました。

 

洗濯物も畳まれていました。

 

子どもたちは笑っていました。

 

 

だから僕は、

ますます分からなくなったんです。

 

妻は、

いったい何を考えているんだろう。

 

僕は、

何を見落としているんだろう。

 

 

そう思って、

少しだけ今までと違う目で

妻を見るようになりました。

ある日気づいたら、

妻は僕と目を合わせなくなりました。

 

 

話しかけても返事はありません。

 

 

朝、「いってきます」と言っても返事はない。

夜、「ただいま」と言っても返事はない。

 

まともに会話をしなくなって

数えると三ヶ月が経っていました。

 

 

正直、焦りました。

 

「俺、何かしたかな。」

 

「何がいけなかったんだろう。」

 

何度も考えました。

 

 

でも、妻は、

僕を無視するようになったのに、

 

お弁当は毎朝作ってくれる。

 

仕事から帰れば、

夕飯も僕の分までちゃんと並んでいる。

 

洗濯も終わっている。

 

子どもたちのお風呂も、

ご飯も、翌日の準備も、

いつも通り。

 

家の中は何も変わっていませんでした。

 

 

だから僕は、

 

「怒ってるわけじゃないのかな。」

 

「そのうち元に戻るのかな。」

 

そんなふうに思っていました。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

妻は、昔から頑張る人でした。

 

家事も育児も、

手を抜いているところを見たことがありません。

 

夜、子どもを寝かしつけながら、

僕はそのまま一緒に眠ってしまうことがほとんどでした。

 

 

でもある日、

夜中に目が覚めると、

妻は台所に立っていました。

 

静かなキッチンで、

翌日の準備をしていたんです。

 

 

朝になれば、

ゴミ箱には新しい袋が掛けられている。

 

洗面所のタオルは、いつもいい匂いがする。

 

子どもたちの水筒も並んでいる。

 

 

僕は、それを「当たり前の毎日」だと思っていました。

 

今思えば、

その"当たり前"を作っていたのは、

全部妻でした。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

思い返すと、

小さな出来事はいくつもありました。

 

 

ある日、お弁当を開けて、

「今日のお弁当、なんか茶色っぽかったね。笑」

なんてLINEを送ったことがありました。

 

深い意味なんてありません。

 

いつもの冗談のつもりでした。

 

 

返ってきたのは、

 

「ごめんね。」

 

その一言だけでした。

 

 

 

またある日。

 

妻が、

「今日は疲れたなぁ。」

と、ぽつりと言いました。

 

僕の答えは、

「俺も仕事で疲れた〜」

でした。

 

それで、その話は終わりました。

 

 

別の日には、

「今度の土曜日、友達と会おうって話があるんだけど…」

そう妻が言ったこともありました。

 

妻が友人と会うのは

珍しいことでした。

 

ただ、その日は

仕事の予定が入っていて

 

「ごめん。その日、帰り遅くなるかも。」

そう答えました。

 

 

妻は、

「そっか。」

と言って、それ以上何も言いませんでした。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

当時の僕は、本当に悪気なんてありませんでした。

 

 

仕事を頑張ることが、

家族を守ることだと思っていました。

 

だから、

家にいる妻の方が大変だなんて、

一度も考えたことがなかったんです。

 

 

むしろ妻は、家事も育児もちゃんとこなしていて、

子どもたちとも楽しそうに過ごしている。

 

そんなふうに見えていました。

 

でも、もしかしたら

家事と育児が大変なのかも知れない。

 

 

だから、

 

「もう少し家事を手伝えばいいのかな。」

 

「週末はもっと子供を公園に連れ出そう。」

 

そんなことばかり考えていました。

 

 

実際に、そうしてみたんです。

 

それでも、妻の様子は変わらなかった。

 

 

何かが違う。

 

 

僕は、妻の何を見落としていたんだろう。

 

何を聞き逃していたんだろう。

 

そう思って、妻を見るようになりました。

 

 

このブログは、

そのときから始まった僕の観察記録です。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

何かが違うと感じた僕の違和感は、

当たっていました。

 

僕はずっと、

夫婦関係が壊れた原因は
「家事育児」
だと思っていたんです。

 

僕が仕事ばかりしていたから。

 

妻に任せすぎていたから。

 

妻の話をちゃんと聞かなかったから。

 

 

だから、

 

僕がもっと家事をすればいい。

 

子どもたちと過ごす時間を増やせばいい。

 

妻が一人になれる時間を作ればいい。

 

そうすれば、
また前みたいに戻れると思っていました。

 

 

でも、

それだけではありませんでした。

 

 

もちろん、
僕にも変わらなければいけないところは
たくさんありました。

 

今思えば、

「なんであんなこと言ったんだろう」

と思うこともあります。

 

でも、

それだけでは説明がつかなかったんです。

 

 

もし夫婦関係が原因じゃないとしたら、
あなたは何が原因だと思いますか?

 

 

僕は、
この答えがずっと分かりませんでした。

 

でも、あることを知ってから、

今までバラバラに見えていたものが、
少しずつつながり始めました。

 

 

妻は昔から、

 

誰かの機嫌が悪いと、
「私、何かしたかな」と気にする人でした。

 

本当は嫌なことがあっても、
「大丈夫」と言う。

 

疲れていても、
なかなか休まない。

 

人に頼るくらいなら、
自分でやってしまう。

 

何かうまくいかないことがあると、

 

最後にはいつも、
自分に悪いところがなかったかを考えていました。

 

 

僕はずっと、

「そういう性格なんだ」

と思っていました。

 

でも、

夫婦関係が悪くなってから
初めて気づいたんです。

 

 

妻のこういう姿は、

 

僕と結婚してから
突然始まったものではありませんでした。

 

 

子どもの頃の話。

 

学校での話。

 

友達との話。

 

仕事をしていた頃の話。

 

そして、

母親になってからのこと。

 

 

妻から聞いていた昔の話まで思い返していくと、

どこか似ていました。

 

僕には、

ずっと別々の出来事に見えていました。

 

 

でも、

そうじゃなかった。

 

もし、

これらが全部つながっているとしたら。

 

僕が「性格」だと思っていたものにも、

何か理由があるとしたら。

 

妻が三ヶ月、
僕と目を合わせなくなったことも、

少し違って見えてきました。

 

 

僕が知ったのは、

 

妻を変える方法でも、

夫婦喧嘩をなくす方法でもありません。

 

ただ、

「なぜ、こんなに苦しくなってしまうのか」

その見え方が変わる話でした。

 

 

僕たち夫婦のことを書き始めてから、

 

似たような経験をしている人は、

もしかすると、
僕が思っているよりずっと多いのかもしれない。

 

 

そんなことも考えるようになりました。

 

 

だから、

僕が知ったことを、

ここから先に残しておこうと思います。

 

「性格だから。」

 

そんな一言では分からなかったことが、

少しずつ見えてきた話です。

 

 

▶︎「苦しさの原因」を紐解くメルマガ

 

無料で、いつでも配信は解除できます。