翌朝、青年は昨日のことが忘れられず、

畑仕事もせずに同じ場所へと向かっていた。

同じ場所に着くと、そこには老人が座っていた。


「待っていたぞ、青年。必ず来ると思っておった。

今日も、ワシと遊んでくるのか。ありがたい」


青年は、自分でもなぜここに来てしまったか不思議でならなかった。

ただ、玉を引きたい。

そして、自分の望みをかなえてほしい。

青年の頭の中は、すでに赤玉を引いて当然と考えるようになっていた。


「さぁ、老人。今日もその袋の中を引かせてくれないか」


「あぁもちろんだとも。そのかわり、

今回は、おぬしのその履物をワシにくれないか」


「履物?こんなものでよければくれてやる」


「すまないの。では、ほれ、引くがいい」


青年は、袋に手を入れ玉をひとつとりだした。


「白色の玉じゃ。残念だったのう」


青年は、自分の引いた玉が白玉だったことに腹がたってしょうがなかった。


「もう一回、引かせてくれないか」


「ああいいとも。そのかわり今回は、首からかけているものをくれんか?」


自分の奥さんになるであろう人からもらった貝の首飾りである。

これを、老人にあげてしまっていいものか、躊躇したが、

自分の欲望には、かなわなかった。

もし、あげてしまったとしても、赤玉を引いて取り戻せばいい。

そう、考えていた。


「いいだろう」


青年は、首飾りをはずし、老人に手渡した。

そして、再び、その手を袋の中へと突っ込んだ。


「今回は、慎重に選ぶとしよう」


青年は時間をかけ、手に神経を集中させて、ひとつの玉を選んだ。


「よし。こいつだ」


勢いよく手を引き抜き、つかんだ玉の色を確認する。

手には、黄色の玉が握られていた。


「黄玉じゃ。さぁもう一回引くがいい」


青年は、また袋に手を入れひとつ掴み取った。

玉の色は白色だった。


「残念じゃのう、青年」


青年は、呆然としている。

が、すぐに気を取り直すと。


「もう一回だ。老人」


青年は、ムキになっていた。

昨日は、赤玉を引けたんだ。馬だって手に入れた。

今日だって、できないはずはない。

本気でそう思っていた。


結局、その日の昼過ぎに青年は、素っ裸で家に帰ってきた。

そんな青年を見て、両親や村人たちは気でも狂ったかとたいそう心配した。

青年は、今日の出来事を一言も話そうとはしなかった。

そして、飯もろくに食べず、ずっと険しい顔をしていた。


青年が、朝出かけ、昼過ぎに疲れきって帰ってくるという生活になって

一週間近くが経とうとしていたある日。


村に異変が起き始めた。

それは、今まであったはずのものが、忽然と姿を消してしまうという現象が村のあちこちでおきだしたのだ。

村人たちの衣類。村の畑の農作物や家畜。仕舞いには村長の家の屋根までもがなくなった。

村人たちは、何か言いも表せない恐怖におびえる暮らしを強いられることとなった。

お互いが、お互いを疑いだし、喧嘩の絶えない村と化してしまった。


原因は、青年だった。

青年は、玉を引くことと引き換えに、老人に自分のものから村のものまで、老人に譲り渡していたのだ。

結果はといえば、青年は、最初のころに赤玉を引いて馬をもらって以来、

一回も赤玉を引くことができずにいた。

しかし、青年は、次に赤玉を引けば今まで、失ったものはすべて取り戻せる。

そして、連続で赤玉さえ引くことができたら、また自分のほしいものが手に入る。

とりあえず、赤玉さえ引ければなんとかなる。

頭の中は、そのことでいっぱいだった。

その時の青年には、そのほかのことはすべて無意味だった。


そんなある日、今日も赤玉を引けず村に帰ってくると、

村中が焼けてなくなっていた。

さすがの青年も、これには気がついた。

ただ、焼け野原となった村を青年は、ぼんやりと眺めている。

大声で叫んでみたものの、人のいる気配はまったくなかった。

村にはぽつんと一人、青年がいるだけだった。


おそらく、喧嘩が大きくなって、誰かが火を放ったのであろう。

昔の村の面影は何一つ残っていなかった。


我に返った青年は、自分のしてしまったことの重大さにようやく気がついた。

自分のせいで、すべてがなくなってしまった。

残ったのは、自分だけ。


「どうしたらいい・・・ どうしたらいい?」


考えるより先に、足は自然と老人の所へと向かっていた。


「赤玉だ、赤玉を引いて、すべてを元に戻そう。それしかない」


今までに走ったことのないにくらいに走って、いつもの場所についたが、

そこに、老人はいなかった。

あたりを見回し、叫んでみたものの、老人は姿を現すことはなかった。

何日も、同じ場所に泊り込んで老人を待ったが、

結局、老人が青年の前に姿を現すことはなかった。



おしまい。