妄想小説






〜2−7沈黙〜





マルモワ州、SSKオフィス


贋作組織壊滅の為

アルカナイカ刑務所に居るエドガーと

ウェブで作戦会議が開かれていた



潜入捜査官『本当に、ピンカーソンに信用されますかね?』


エドガー『きっと上手くいきます

この手の人物は、例え胡散臭い人でも、利益がある間だけは信頼出来る

と考えますので』


ジェシー『でもでも!その場で殺されちゃう事もあるんだよね!?

恐怖!恐怖ですよー!!!』


エドガー『勿論、危険は覚悟しているでしょうが

捜査を中止して、保護プログラムをするのも構いません

後の捜査は、私達SSKが、時間を掛け

捜査するので……』


潜入捜査官『ここまで来たんだ、最後までやるつもりですよ』


エドガー『分かりました

では、先程話した通りに動いて、ピンカーソンとの会話は、台本を覚えて貰います

時間はありませんが……』


潜入捜査官『大丈夫です!

これでも、役者を目指していたので……

悪役に成りきれれば、セリフ覚えなんて

問題ないですよ

それに、ある意味

俳優になる夢が叶うチャンスでもあるので

気合満点です!!』



限られた時間の中で、ピンカーソンとの駆け引きする為のセリフを、覚えきった潜入捜査官


いよいよ、作戦開始である



組織のアジトへ乗り込んだ潜入捜査官

その足取りは、台本通りに、慌てふためいている


そして、そのまま

見張り役のメンバーへ駆け寄った


潜入捜査官『た!大変だ!!!

今すぐボスに会わせてくれ!!!』


見張り役『な……!お前は……!!』


屈強で強面な見張り役

全国制覇を目指す様な風貌で恐ろしい


少し驚いた見張り役、その様子から

潜入捜査官だと疑われていると予測した


潜入捜査官『……実は、FBU捜査官なんだ!』


そう言うと、FBUのバッジを見せる潜入捜査官


見張り役『やっぱりそうか!

……だが、わざわざ殺されに来るとはな……』


見張り役は銃を取り出した


潜入捜査官『………いいのか?

アンタの勝手な判断で殺しても……

ボスに話を通さないと、

アンタもボスに殺されるぞ?』


その場に緊張が走る


潜入捜査官『それに、自分から殺してくれって

来る奴がいるか?』


見張り役『………ッチ!

お前の言う通りだ……

ボスの命令で、お前を見つけ次第、連れて来いと言われてたからな』


ボディーチェックをされ

両手を縛られた状態で、ボスの居る部屋へ連れて行かれた



ボスの部屋


椅子にも縛られ、身動きが取れなくなった潜入捜査官

駆け引きが失敗すれば、死は確定である


ピンカーソン『潜入捜査官ねぇ……

だと思ったわ

ヌードル美術館の職員だったアナタが

ウチに入って間もなく、美術館に捜査が入ったから、もしかして、とは思ったけど……』


組織のボスは女性であった

強面達を束ねるのだから、手強い人なのは確かだ


潜入捜査官『……………何故、すぐに殺さない?』


ピンカーソン『あなたバカなのかしら?

どこまで捜査が進んでるか拷問する為よ………

早速、指を切り落としなさい』


見張り役の強面が、ナイフを取り出し

潜入捜査官に詰め寄る


潜入捜査官『ちょっと待て!

なんで自ら自白したか、気にならないのか?』


ピンカーソン『興味ないわ……、やりなさい』


見張り役『喜んで!』


潜入捜査官『俺の目的は二重スパイだ!!!

アンタ達に情報を漏らす代わりに金を貰う為!!!

FBU捜査の為じゃない!!!』


見張り役『………えっとぉ、ボス……?』


見張り役の手が止まった


ピンカーソン『要するに、自分は悪徳警官で

金儲けがしたいと?』


潜入捜査官『あぁ、そうだ!

当初の予定なら、ボスの信頼を得てから話すつもりだったが、緊急問題が起きたから

今、ここに居る!!』


ピンカーソン『う〜ん…………、話しなさい』


ヌードル美術館の職員から組織に潜入し

証拠を集め逮捕する経緯を話し

潜入捜査官という立場を利用し

金儲けの計画を立てた、と

エドガーの台本通りに事が運ぶ

ここまでは計画通りである


潜入捜査官『……しかし、問題が起きた!

美術品に詳しい、ある捜査官が、プライベートでヌードル美術館を訪れ、贋作だと見抜いた!

そして、その捜査官がFBUの静止を無理やり振り切って、美術館の監査が始まったんだ!

組織が絡んでいる事もバレた!

ボス達は勿論、俺にとっても不都合でしかない!

だから、予定を変更して

アナタに話す事にしたんだ』


ピンカーソン『………おかしいわね

その捜査官もFBUなんでしょ?

仮にも、ウチの組織の存在を知ったとして

あなたが潜入捜査してると分かれば

中止するんじゃないかしら?

話の流れからすると、捜査は続行してる

つまり、あなたは、私達を罠にハメる演技をしている事ね……

もういいわ、殺しなさい』


潜入捜査官『その捜査官はFBUじゃない!!!

そもそも、たいした証拠も無く

FBUが逮捕しにくる訳が無い!!!

だからこそ、俺が潜入してるんだ!』


ピンカーソン『FBUじゃないなら何者なの?』


潜入捜査官『………SSK捜査機関の

イソノ捜査官だ!』


ピンカーソン『SSK……

噂程度に聞いたわ

数ヶ月前に新しく出来た捜査機関……

ルールを無視した捜査が行えて

本来なら、違法捜査で得られた証拠は認められないけど、彼らが提示する物は合法となる……

そんな感じだったわね?』


潜入捜査官『流石!

なら分かるはず、今がヤバイ状況だってのが!

奴らなら、証拠が無くても

疑われた時点で、色々すっ飛ばして逮捕でき!

刑務所に送ることも!

確証が無くても簡単に令状も取れる!

だから……!』


ピンカーソン『もういいわ

言いたい事は分かった……』


迫真の演技で危険を悟らせた

伊達に俳優を目指してただけはある


ピンカーソン『それで?

何か悪巧みの交渉があるんでしょ?』


潜入捜査官『信用して貰えたのか?』


ピンカーソン『いいえ、全然……

けれど、あなたの言う事が本当でも嘘であろうとも、まだ生かしておく必要が出来ただけ……

成り行き次第では、即死刑よ』


潜入捜査官『…………分かった、それでいい』


見張り役『いいんですか?

こんな胡散臭い野郎を殺さなくて!』


ピンカーソン『言ったでしょ?

生かしておく必要が出来たと……

もし本当なら、利害が一致してる間は信用できる

それで裏切っても、損をするのはコイツだけ

裏切りたくても裏切れないものよ

嘘なら、その時はアナタが殺しなさい』


潜入捜査官は内心、動揺していた

不気味なくらいに、エドガーの台本通りに

話が進んでいたからだ


気持ち悪さを感じ、この件が終われば

二度と関わりたくないと誓っていた


潜入捜査官『奴らSSKは、その特殊ゆえに

人材に重きを置いてる

俺の様な悪徳捜査官が居れば、適度な犯罪も合法的になってしまうからだ

噂では、今のメンバーを集めるのに数年も掛かったらしい……

つまり、逆を言えば

そいつらが居なくなれば、立て直すのに

少なくても、また数年掛かるわけだ

崩壊すると言っていい……

奴らを消すには急いだ方がいい

方法は、暗殺がベストだと思う

アンタ達なら得意分野でもあるだろう?』


ピンカーソン『……………確かにそうね

筋は通ってるわ………

けれど、それ自体が罠である事も捨てきれない……

困ったわね………』


潜入捜査官『だとしても、SSKが邪魔なのは変わらない……

盗聴もしていない、俺はもう、アンタの目から離れない、人質にも使える!

状況は有利だ!』


ここまでは台本通り

ここで、しくじれば

これまでの捜査が水の泡になる


ピンカーソン『………………

メンバーは全員で何人いるの?』


潜入捜査官『全部で23人……

だが、殆どがアシスタントで

主軸となるのは5人……

クロード主任を中心に、エドガー、デレク、レベッカ、イソノ……

ここ5人さえ消す事が出来れば、他のアシスタントは放っといても問題ない

素人だからな……

暗殺の順番は、先にデレクがいいだろう

奴は特殊部隊の出身で、警戒されてない内に消すのがいい、警戒されると、一番の障害になるからな……

その後に、クロード、イソノ、エドガー、レベッカ……、分析官のジェシーは、ついでに程度でいいだろう、そこは任せる

俺が二重スパイで、奴らの居場所を教える……

やり方は、アンタ達の方の考えでいい……

俺は情報を与えるだけ

資料は、ボディーチェックの時に取られた

カバンの中にある』


見張り役『そういえば

確かに、こんな物が……』


カバンに入っていた資料を

ピンカーソンに渡す見張り役


その資料を、まじまじと見るピンカーソン


このまま台本通りに

話が進めばいいのだが……



ピンカーソン『………ま、いいでしょう

あなたの話に乗ってあげる』


潜入捜査官『本当か!?

良かった!じゃあ、さっそく

最初の標的、デレクの居場所だが……』


ピンカーソン『何を勘違いしてるの?

あなたは情報を渡すだけ

やり方も順番も、こっちが決める

最初の標的は、クロードよ

今、何処にいるの?』


潜入捜査官『……!!!?

ちょっと待ってくれ!!!

奴らの中で、一番の強敵はデレクだ!

油断している内に殺らないと

下手したら、こっちも被害が出る!

デレクにするべきだ!!』


ピンカーソン『青いわね……

組織というのは、上の人が居なくなると

混乱するものよ

その混乱に乗じて暗殺するのが、効率的で楽なものなの、頭が潰れれば、残った手足はジタバタもがくだけ……

私の言う事が聞けないなら、あなたは必要ない』


潜入捜査官『………………分かった……』


標的はクロードに決まり

ピンカーソンと見張り役を含め、数人と共に

現在、クロードが居る場所へと向かった



マルモワ州、デージ河川


ここの川は、幅が広く長い川だ

その為、一定距離に橋が三本も掛けられている


真ん中の橋の下

ここに、クロードは気分転換で訪れるという情報を元に、別の橋の上に車2台でやって来た組織のメンバー

情報通り、橋の下にはクロードが居た


車内から、スナイパーライフルで狙いをつける見張り役

もう1台の車で、潜入捜査官とピンカーソンは

その様子を見ていた


見張り役『……捉えました

いつでもいけます』


無線で、ピンカーソンの命令を待つ見張り役


潜入捜査官『よし!確実に仕留めたい!

頭を狙ってくれ!』


ピンカーソン『なに勝手に仕切ってんの?

………心臓よ、心臓を撃ちなさい』


潜入捜査官『……………まだ疑われているのか……?

ここで失敗する訳にはいかない……!』


ピンカーソン『あなたこそ、私達を信用しなさい

彼の狙撃の腕は確かよ』


ソワソワする潜入捜査官


そして遂に、弾丸が放たれた

その弾丸は、クロードの心臓を撃ち抜き

胸から血が吹き出し、そのまま倒れ込むクロード


双眼鏡を覗き、その様子を見るピンカーソン

ピクリとも動かないクロード


ピンカーソン『…………どうやら、あなたの言う事は本当みたいね……

この時間帯は、滅多に人も車も通らない

即死じゃなくても、発見される前に

出血であの世行き……

いいわ、信用してあげる

次のターゲットは、デレク·ホッチナーよ』


潜入捜査官『デレクは今、SSK本部に居る……

クロードの死体が見つからなければ、いつも通りあと2.3時間で家に帰るはずだ

家の場所は知ってる、先回して待ち伏せしよう!

方向は、あっちだ!』


そのまま、潜入捜査官が指定した方へ

車2台とも、先へ進み

橋を渡り切る寸前のところ

突如、FBUの車両と特殊部隊が現れ

道を塞いだ


ビックリして、急ブレーキをかける運転手

車が停止した瞬間

勢いよく、車のドアを開け

外へ飛び出した潜入捜査官


勢いのまま、橋の手すりを飛び越え

川へダイブ


突然過ぎて、さすがのピンカーソンも

一瞬、思考停止した


そして

やっぱり、潜入捜査官は

騙していた事に気づいたが

潜入捜査官は既に、少し流れの速い川に流されていた


ピンカーソン『……クソッ!!

グズグズしないで!!!

反対側に行きなさい!!』


運転手『はっ、はい!!!』


見張り役『あの野郎……!!

必ず見つけ出して、ぶっ殺してやる!!!』


すぐさま、車を反転させたが

時すでに遅し

反対側からも、特殊部隊の車両が道を塞いだ

デージ橋は封鎖された


銃を持った、特殊部隊に囲まれた、ピンカーソン等に逃げ場は一つしかないが……


イソノ『降参しなさい

唯一の逃げ場は、川へ飛び込む事ですが

私達なら、あなた方が飛び込む前に、確実に四肢を撃つ事が出来ます

怪我をした状態で、この川の流れを泳ぐのは不可能です

命を落としますよ?』


観念したのか、両手を上げ

車から出てきた



イソノ『捜査官暗殺未遂で逮捕してください』


長官『待ちに待った瞬間だ

君達、SSKに感謝する』


FBUの人達が手錠をかけ、連行する


ピンカーソン『暗殺未遂……?

残念だけど、クロードは死んだわ』


イソノ『いいえ、生きてますよ

今は、さすがに痛みで動けないようですが……

防弾チョッキに、血のりを仕掛けてたので……』


ピンカーソン『……ちょっと待って

罠を仕掛けたのは理解したわ……

だけど、標的も撃ちどころも

私が決めた事……、随分ギリギリの作戦ね』


イソノ『そんな事ないですよ……

恐ろしいくらいに計算通りでした……

主導権を握らないと気が済まないアナタは

潜入捜査官の言う事とは、意地でも違う判断を下すと予想してました

頭を撃たれてたなら、クロード主任は死んでいたでしょう……

しかし、先に潜入捜査官が頭を狙えと言えば

アナタはきっと、胸を狙えと指示することも

我々の予測通り

同じくターゲットを選ぶ時もです……

それに、アナタのような方は、敵の大将を優先的に狙う事も承知の上でもありました……

滑稽ですな、踊らされてるとは思ってない

アナタの自信に満ち溢れた顔を

拝みたかったですよ?』



その頃、川へ飛び込んだ潜入捜査官は

待機していた救助隊に、無事に保護された


そして、防弾チョッキを着ていたとは言え

弾丸の衝撃の痛みで動けないでいたクロード


この時、クロードが考えていた事は

こんな事をしないで済む為に出世したのに……

と、黄昏れていた



この事件は、引き続き

FBUが捜査する事になった



マルモワ州、FBU支局

取り調べ室


潜入捜査官『……噂では、SSK捜査官に疑われた時点で逮捕扱いされ、刑務所に行かされると……

まぁ、実際は、捜査のルールが自由なだけで

後の事は一緒だ……

いくら彼らSSKでも、何の証拠も罪名も無く

長い時間、拘留する事は出来ませんから……

だけど、無いなら作ればいい……

おかげで、ゆっくりアンタの贋作組織の捜査が出来るようになった……

表向きは暗殺組織の疑いだが……

懐に入れたんだ、

それ以外の犯罪も見つかるだろう

アンタの罪は、どんどん加算される

一生、檻からは出られないな……』


ピンカーソン『得意気になって……

組織は、アンタを許さない

報復されるわよ?

気をつけなさい?』


潜入捜査官『………そうかな?

たしか……、誰かが言ってたな……

組織というのは、頭が潰れれば

残った手足はジタバタもがくだけ……だったかな?

……あぁ!思い出した!

そうだ、アナタが言っていた事だった!

いや〜〜、勉強になりました

感謝します!』


ピンカーソン『……クソったれめ!』



SSKオフィス


クロード『リクルートについては、念の為に野放しにするそうです』


長官『何故だ?

犯罪を犯した奴は、誰であろうと逮捕する!

ピンカーソンを問い詰めれば、直ぐに辿り着くはずだ

ピンカーソンにとってリクルートは

ただのビジネスパートナー……

自分を犠牲にしてまで庇う事は無いはずだ

司法取引すれば簡単だ』


クロード『私も、そう思いますが

これもエドガーの作戦……

彼の頭の中を信じましょう』



そして、この日の夜

それは、唐突に起こった


アルカナイカ刑務所で火事騒ぎが発生

今まで、大人しく沈黙していたモンゴメリーが

動き出したのだ





つづく〜