水産資源枯渇と気候変動は問題としての構造が比較的同じ。そして水産資源枯渇は解決事例がある。
気候変動を考察する前に日本の水産資源枯渇を例に問題を考察してみる。

 

1.水産資源と気候変動問題の相違点

①共に典型的なコモンズ問題
 ・将来より現在の利益が優先されやすい(痛みは今、利益は未来)
 ・費用は分散、利益は個別(取り過ぎによる利益は個人、資源減少による費用は全体)
 ・科学的不確実性がある(漁獲量は資源があっても年変動大)
 ・政治的に規制が難しい(政治家の支持基盤、利権構造がある)
→個別最適と全体最適の利害関係、予測の不確実性、時間と受益者の非対称性があり問題難易度は高い

②決定的な違い
・スケール
気候変動:地球規模
水産資源:主に排他的経済水域(EEZ)単位は国家単位で閉じられる場合が多い。

・可逆性
CO₂は大気中に長期残留(数千年以上)
魚は適切に管理すれば数年〜十数年で回復可能
ニュージーランドやアイスランドは資源管理導入後に資源回復

・技術依存度
気候変動:エネルギー体系全体の転換が必要
水産資源:主に漁獲努力量の制御

水産資源問題は気候変動問題の小スケール版と考えて良さそう。

2.成功事例の共通点
資源回復に成功した事例はいずれも以下を備えている
・将来利益が今に反映・帰属する構造
・資源評価の信頼性
・割当の明確化
・監視と罰則
・合意形成できる状況

①漁業権の財産化と売買・貸借制度の導入(将来利益が今に反映・帰属する構造)
・所有権が明確
将来の資源回復が価格に反映、長期インセンティブが働く。
・個別割当(ITQ)
ITQは財産的価値を持つ。将来資源が増えれば、枠の価値も上がる。漁業者が資源保全の味方になる。

②科学的な資源管理の導入(資源評価の信頼性)
客観的且つ利害関係から離れた科学基盤なしでは漁獲可能量(TAC,Total Allowable Catch)制度は形骸化する
・資源量推定
→調査船のデータや水揚げ量・年齢データを用い、計算により現存する魚の総量を推定
・最大持続生産量(MSY)管理
→長期的に漁獲量が最大になると認定できる範囲に資源を維持. する管理を行うことで得られる漁獲量

③割当の明確化
・個別割当(ITQ)
科学的にTAC(総量)を設定→各漁業者に◯%という割合を付与→実際の漁獲可能量はTAC × 自分のシェア
そのシェアは売買・貸借できる(Transferable)

・早獲り競争が消え、過剰投資が減り、経営安定化が進む

④法整備、制度整備監視体制(監視と罰則)
国主導による法整備と管理が必要でこれが弱いと抜け駆けが起きる。
未導入な業者が存在すると取りたい放題による制度崩壊につながる
・漁獲報告義務強化
・VMS(船舶位置監視)
・電子報告
・罰則強化

⑤水産業者の同意形成(合意形成できる状況)
・歴史的に資源枯渇(危機)が差し迫った時に国家主導(強権)で合意形成がなされてきた。
資源枯渇危機 → 政治決断 → 補償・段階導入 → 制度定着

・アイスランドは経済がほぼタラ漁業依存。1970年代の資源危機で国家存亡レベルの問題。
資源崩壊=国家崩壊という共有認識

・ニュージーランドでは、戦略資源である水産資源が崩壊。
政府が一気に包括導入→既存漁業者に無償で割当を付与→過去実績ベース配分
既得権を尊重したため、大規模な法的抵抗が起きにくかった。


3.日本で制度導入が難しい理由
①将来利益が今に反映・帰属する構造
・漁業は共同体型(漁協中心)漁業権は地域に帰属する考え方が強い
・民主化された漁業権制度で生活保障を重視してきた歴史。そのため市場原理的な権利の私有化と思想的に相性が悪い。

②資源評価の信頼性
・魚種が多く、単一種管理が困難(多魚種漁業)。
・地域沿岸小規模漁業のデータが不足。
・環境変動(黒潮変動など)の影響が大きく、予測不確実性が高い
・現場では科学より経験の文化が強い。

③割当の明確化
・誰にどれだけ配るのかが最大の政治問題になる
・沿岸と沖合、大臣許可と知事許可の制度差
・過去実績基準にすると、新規参入が困難で公平性議論が終わらない

④監視と罰則
・電子的監視(VMS・カメラ)への抵抗。
・罰則が軽く、摘発件数も多くない。
・漁協内部の相互監視文化はあるが、外部的強制力は弱い

⑤合意形成できる状況
・水産政策は地方選挙と強く結びき、制度導入の障壁
・地域経済の中核で短期的な損失の受入が許容されにくい
・漁業者の高齢化が進んでおり将来・長期的な制度改革への抵抗
・回遊魚や沖合・遠洋対象魚種では、広域の漁協で足並みを揃えないとTACは効きにくい


4.まとめ
・水産資源と気候変動は共に典型的なコモンズ問題であり、難易度は高い。特に気候変動は超高難易度。
・効力のある制度設計はコモンズ特有の問題を解消する機能を有している。
 →漁獲量を“財産権化"することコモンズを私有化に近づける。"未来の利益"を"今"に近づける。
・資源管理制度の成功事例は、資源枯渇間際の"危機的状況"で国家主導による強権で実施。
・日本の漁業環境で海外の成功事例をそのまま導入するのは難しく、カスタムして導入する必要がある。

日本で機能する資源管理制度がどのように導入されるのか次回考察してみる。
資源管理制度の導入は漸進学習ではほぼ不可能。危機学習で低確率ながら可能性あり。
資源枯渇をしても学習は起こらず政府補助金頼りの養殖、放流などへの産業構造移行が一番可能性が高いという予想。