M9級予知できず…研究者反省“経験則に依存”
産経新聞 [10/30 23:07]
東日本大震災を予想できなかったことを地震学者が反省する日本地震学会のシンポジウムの様子が報じられましたが、これほどの巨大地震がなぜ想定外だったのですか。地震の予知や前兆の研究はどこまで進んでいるのですか=匿名

■長期予測と直前予知

地震予知とは、将来の地震の発生を予め知ることだ。大事なのは「いつ」「どこで」「どの程度の大きさか」を知ることで、これを地震予知の3要素と呼ぶ。単に「大地震が起きる」と言い続けて、どこかで実際に起きたとしても、予知したことにはならない。

予知は「長期予測」と「直前予知」の2種類がある。


前者は過去の地震の発生間隔などを分析し、数十年から百年程度の将来を予測するもので、都市計画や耐震化の推進などに役立てる。後者は地震直前の前兆現象をとらえ、社会に警戒を促すのが目的だ。

長期予測は阪神大震災以降、政府の地震調査委員会が全国110の活断層と海溝沿いの地震を対象に実施してきた。長期評価とも呼ばれ、各地震についてマグニチュード(M)を推定し、「M8級が30年以内に起きる確率は1%」などと数字を公表している。

一方、直前予知の対象は東海地震だけだ。

海溝型地震の一つである東海地震は、発生直前に想定震源域のプレート(岩板)境界がゆっくりと滑り始める「前兆滑り」という現象が起きる可能性があり、気象庁はこの検出を目指して24時間体制で監視している。

直前予知の観測網や監視体制が敷かれているのは東海地震だけで、それ以外の地震で直前予知は不可能だ。東海地震も前兆滑りが起きなかったり、起きても検出されない可能性があり、気象庁は「必ず予知できるわけではない」としている。

東日本大震災の巨大地震(M9.0)は直前予知はもちろん、長期予測でも全く想定されていなかった。「地震学の大きな敗北だ」「責任を感じる」。

10月15日に開かれた日本地震学会のシンポジウムでは、研究者から自戒と反省の言葉が相次いだ。

なぜ「想定外」だったのか。ある地震学者は「日本でM9は起きないと思い込んでいたからだ」と話す。

地震調査委は過去の歴史記録などを基に、岩手県沖から茨城県沖までの日本海溝沿いを7つの区域に分け、それぞれの場所でM7~8程度の地震が個別に起きると想定していた。しかし大震災では、このほぼ全区域が同時に連動する予想外の事態となり、「千年に1度」ともいわれる巨大地震が発生した。

日本海溝は海底の太平洋プレートが陸の下へ沈み込む場所で、東海地震などが起きる南海トラフと基本的に同じ構造だ。

しかし、太平洋プレートは年代が古いなどの理由から、M9級の巨大地震を起こすエネルギーはないとされ、それが過去数十年にわたって地震学の常識になっていた。

日本海溝の巨大地震は一部の研究者が理論上の可能性を指摘していたが、ほとんどの学者は「あり得ない」と思っていた。「想像力が足りなかった」「既存の知識で理解できたと思い込んでいた」との声も聞かれる。過去の経験則に依存する地震学の限界を露呈したといえそうだ。

■大震災で方針転換

この反省を踏まえ、政府は歴史記録の有無にかかわらず、科学的に起こり得る最大の地震を想定する方針に転換し、見直し作業を進めている。

特に近い将来、大地震が予想される南海トラフ沿いの想定見直しは国家的な課題だ。ただ、連動型巨大地震の仕組みは未解明なことに加え、阪神以降の大地震はいずれも想定外だったことを考えると、予知の成功を前提としない国づくりが急務になる。

一方、大震災で前兆滑りは確認されていないが、前兆の可能性がある「異常現象」が報告されている。

東北大の長浜裕幸教授らは、福島市で地面から大気中に放出されたラドンガスの濃度を測定。昨年6月から約半年間増加し、大震災の約3カ月前に急減した。ラドンガスの濃度変動は、阪神大震災の前にも神戸市で観測されたという。

北海道大の日置幸介教授は大震災の約1時間前、東北地方上空の電離圏で電子数が急増したことを衛星利用測位システム(GPS)を使った観測で発見した。

このほか大気中の電波の異常なども報告されているが、いずれも地震との因果関係は不明だ。東大地震研究所の纐纈一起教授は「異常現象があったとしても、地震発生の時間や場所、規模などを正確に予測できる段階とは言い難い」と話している。(長内洋介、小野晋史)


Yahoo!ニュース
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