ダーリンはマザコン -2ページ目

ラブホテル(1)

走り疲れて立ち止まった宏樹は、携帯の電源を切りました。 そして私にも同じようにするよう指示し、それを見届けると黙ってコンビニへ入って行きました。 私は早足で進む宏樹に着いて行き、これからどうするのか尋ねました。






「宏樹・・・。 お母さんとあんなに揉めちゃって・・・。

 私の肩を持つような真似をして・・・大丈夫なの?」



「俺は・・・本当は美砂と別れたくなかった・・・。

 でも、さっきの話で美砂の気持ちは良く分かった。

 もう俺に戻ってくる事は無いって気がした。

 だけど、あのままじゃ最悪な形で別れる事になると思って、

 せめて別れ際くらい、好きにさせて欲しくて・・・。」



「うん・・・。」






別れを受け入れる事を決意した宏樹を前に、私には頷く事しか出来ませんでした。 最後くらい、私もちゃんと宏樹の事を受け入れてあげようと思いました。 ママやパパの邪魔が入らない場所で、今度はお互い感情を荒げる事無く冷静に話し合い、二人の最後の問題を解決させるべきだと感じたのです。


コンビニで宏樹はいくらかお金を下ろし、先ほど使ったタクシー代を、 「ごめんね。」 という言葉と共に、その場で私に返してくれました。






「今あのマンションに戻れば母さんたちが来ると思う・・・。

 だから、今夜はホテルに泊まろう。

 明日は仕事だし、早く寝て、早朝に部屋に戻って支度しよう。

 ・・・いいかな?」



「うん・・・。」



「寝る前に、最後の話し合いをしようね。

 俺もまだ美砂に伝えたい事がたくさんあるから。

 謝りたい事が・・・たくさんあるから・・・。」



「うん・・・私も・・・。」






宏樹はコンビニを出た後、スタスタと大通りまで歩いて行き、辺りを見回しました。 そして、目に留まったラブホテルを目指して歩き始めました。






「手、繋いでいい・・・?」



「うん・・・。」



「・・・この傷、ごめん・・・。

 母さんってちょっとヒステリーな所あるから・・・。

 今度会った時に俺がキツく言っておくよ。

 女の身体に傷を付けるなんて最低だからね。」



「ありがとう・・・。」






宏樹に手を引かれながら、私は複雑な気持ちでした。






こんなに私を想ってくれる宏樹が、なぜ浮気なんかしたんだろう?



宏樹は浮気相手の女性にも、こんなに優しかったんだろうか?



私は宏樹の何を見て来たんだろう?



別れる事が本当に正しい決断だったんだろうか?



別れる事でしか解決できない問題だったんだろうか?



どうして、こんな事になっちゃったんだろう・・・?






「美砂、ラブホだけど、いい?

 別に変な事をするつもりは一切無いから。」



「うん、全然構わないよ。」



「じゃあ適当に部屋選んで入ろう。

 モタモタして母さんたちに見付かったらマズイし。」






何年も行ってなかった久々のラブホテル。

部屋番号と部屋の写真が映された明るいパネル。


久々すぎて新鮮に感じられるラブホテルの特殊なシステムを思い出しながら、私はただ黙って宏樹の背中を見ていました。 宏樹がいくつかのパネルを見比べた後、私に確認を取ってパネル脇に付いたボタンを押すと、目の前の機械からレシートのような紙切れが出てきて、部屋番号と階数を印字で案内してくれました。




もちろん、私が最後にホテルを利用したのは宏樹と一緒に居た時です。 宏樹は浮気相手の女性ともホテルを利用したりしたんだろうか・・・? そんな嫌な想像をしつつ、部屋へと向かいました。






「久し振りだね。 二人でホテルに来るなんて。

 同棲する前だから・・・4年振りかな?」



「思えばもう、あの頃からそんなに経ってたんだね。

 前にホテル行った時とは・・・目的が全然違うけど(笑)。」






私の乾いた笑い声を聞いて、宏樹は声を出して泣き始めました。




でも・・・




ごめん、宏樹・・・。

私にはもう、何もしてあげる事ができない・・・。






「ごめん・・・本当にごめんね・・・。

 全部・・・俺のせいだったんだ・・・!

 美砂のせいにして逃げてたけど、俺が悪かったんだ・・・。

 浮気をしたのだって俺だし・・・!

 俺には美砂を引き止める権利なんかないんだよ・・・!」



「こうなる前に、ちゃんと話し合うべきだった・・・。

 私も、何かある度に宏樹を責めるような事ばかり言って、

 ちゃんと向き合おうとしてなかった・・・。」



「美砂は悪くない!!

 俺が美砂の気持ちを考えないで、俺の都合だけで、

 勝手に予定組んで母さんと会わせたりして・・・。

 美砂がどれだけ辛かったか・・・考えた事も無かった・・・!」



「ごめん・・・。 お母さんと仲良く出来なくて・・・。」






ベッドの脇に泣き崩れた宏樹を後ろから抱き締め、私も一緒に泣きました。