不安的中(3) | ダーリンはマザコン

不安的中(3)

「この辺で飯食えるとこ・・・ファミレスでいい?」



「そんな店しか行ってなかったの?

 身体に悪いから、ちゃんとした所で食べなきゃ。」



「でも、ちゃんとした店を知らないし、この辺に無いんじゃない?」



「じゃあ横浜まで出ましょう。」



「今から!? 俺、明日仕事なんだけど・・・。」



「11時までには家に着くようにするから。

 ね? いいでしょ~?」



「そう・・・? じゃあ別にいいけど・・・。

 美砂、今のうちにコンビニで下ろして来たら?」



「夕飯のお金まで私は出せないって。

 夕飯なら3人で行ってよ。 私はそんなお金無いから。」






もう、この程度の事では驚かなくなっていました。 こいつら3人は私のお金で夕飯を食べようとしてる・・・。 でも、私にはそれを出す義理など無いのでキッパリ断りました。





「夕飯とタクシー代で5万もあれば足りるね。」



「済みません。 5万もありません・・・。」

「はぁ? 私たちはアンタがお金出すって言ったから、

 疲れてる中、また外歩かされてんのに・・・。

 これからどーすんのよ?」



「美砂、母さんは足が悪いからあんま歩かせないで・・・。」



「じゃあファミレスでいいじゃないですか。

 言葉の通り、貧乏人なんだし。」



「じゃあ俺が金出すよ!!」



「ヒロ君は出す事ないでしょ!!

 ま、いいワ。 ファミレスならこの人も出せるんでしょ?

 そこで話しましょう。 男との事もちゃんと聞くから。」



「何? 男って・・・?」



「コレ(私)が昨日、ヒロ君が家を出てから男と会ってたの。」



「なんだよそれ・・・。」



「話は後でちゃんと聞くから。

 ヒロ君、大丈夫よ。

 私たちはヒロ君の味方だから。」






結局、こういった経緯でファミレスへ行く事になりました。 ママは依然、宮本さんの存在を疑ってるようで、なにやらパパと目で合図しながら、ファミレスで決着をつけると意気込んでいました。


私の所持金でタクシーを使い、ファミレスに着きました。 店内で席を選ぶ時、ママは 「なるべく綺麗でトイレから遠いテーブル」 と無理を言って、ボックス席のようなテーブルへ案内されました。






「家は臭いし、貯金は無いし、

 わざわざ来てやったって言うのにあんまりよ?

 これ、わざとやってんでしょ。」



「わざとじゃないだろ。 こういう性格なんだよ、美砂は!」



「そうでしょうね。

 寂しくなったら男を呼び出す人だもんね・・・。」



「その男の人ですが・・・本当にただの友人なんです。

 会った時間は非常識な時間帯かも知れませんが、

 やましい気持ちで会ったわけではないんです。」



「じゃあその男を、今すぐここに呼んでください!!」



「こんな勝手な事で呼べません。」



「明け方には呼び出せても夕食時は駄目なの?

 ヒロ君がいるとマズイからでしょ?

 それとも、まだ口裏合わせをしていないから?」



「そんな理由じゃありません!

 揉め事に巻き込みたくないだけです!」



「呼べないなら、その男の名前と電話番号を教えて。

 私がちゃんと事情聞きますから。」



「嫌です! とにかく周りの人は巻き込みたくないんです!」






馬鹿なママの言葉にイライラしながらも、私は周りのテーブルに聞こえない程度の声で話していたのですが、相変わらずママは大声で怒鳴り散らします。






「往生際悪いわね!

 ヒロ君だって正直に話したのよ?

 ヒロ君だけを悪者にしたまま別れて終わらせようだなんて・・・!

 ちょっと虫が良すぎるんじゃない!?

 今まで散々世話になってきた人を、要らなくなったらポイ?

 私だって、どれだけアンタを面倒みて来たと思ってんの?」



「要らなくなったんじゃありません。

 浮気されてまで一緒に居たいと思えないだけです。

 ましてや結婚なんて考えられません。」



「そんなに別れたいなら、今までアンタに使ってきた分の、

 生活費や交通費、あとは慰謝料とか・・・

 色々とカタをつけてもらわないとね。」



「まだ別れるって決まってないだろ!」



「それに、あの部屋はどうなるの?

 アンタがいるから無駄に広い部屋を借りたのよ?

 私は綺麗なワンルームでいいって言ったんだけど、

 ヒロ君はアンタと結婚して一緒に住むからって、

 わざわざ2LDKの部屋にしたの!!

 今まであの部屋の家賃は誰が払って来たと思ってんの!」



「家賃? 今まで半分出してましたよ。

 宏樹君に毎月1日に5万円渡していました。」



「ヒロ君、そんなの受け取ってた?」



「え・・・あぁ・・・うん。

 一応、一緒に暮らすから半分ずつ・・・って。」



「・・・コレに、そう言うように言われたの?」



「いや、マジで払ってもらってた・・・。」



「ヒロ君、コレが本当に家賃を払ってたなら、

 どうしてそれを先に言わなかったの?」



「ごめんなさい。」



「とにかく、私は今更別れるなんて許しませんから。」



「でも、私は宏樹君を愛せませんよ? それでもいいんですか?

 本当に辛いのは・・・私でも、お母さんでもなくて、

 宏樹君自身なんじゃないですか?」



「そんなの、心掛けひとつでどうとでもなるでしょ?

 アンタがヒロ君を大切にしないなら、私は許しません。」



「大切にする自信が無いんです。

 もう今まで通りには・・・」






ママはカバンの中からメモ帳とペンを取り出し、何かを書き始めました。






「今何時?」



「19時33分。」






ママは何かを書き終えると、私の方へメモ帳とペンを置きました。






「お母さん・・・これ・・・!?」



「約束してちょうだい。

 アンタの事は信用できないから、仕方なくこうするのよ。」






メモ帳には大きく 「誓約書」 と書かれており、その下には日付・時間・場所、そして “証人” としてママの名前が記されていました。






「“私、黒崎美砂は” ・・・」



「待ってください!!!」



「早く書きなさい。 “生田宏樹の” ・・・」



「書きません!!

 どうして誓約書なんか書かなきゃいけないんですか!

 第一、私はこの先も宏樹君と一緒にいるつもりは・・・」






私が席を立とうとした瞬間、ママは私の左手を掴み、爪を食い込ませて睨み付けて来ました。 私は力一杯爪を刺された痛みで、大袈裟に悲鳴を上げました。


私の悲鳴で店内のお客さんたちがこちらに注目し、ママは睨み付けたまま手を離しました。 そして店員が掛け付けてきて、私たちの様子を伺うように近くに立っていました。




「店員さん!! 警察を呼んでください!!」




私は咄嗟にそう言いました。 店員は 「どうなさいましたか?!」 と、私とママを交互に見ながら驚いた表情をしています。






「この人が誓約書に名前を書けとか言うんです!

 名前を書かないと言って席を立とうとしたら、

 腕を掴んで来たんです!

 お願いです、助けてください!!」



「気にしないで! この子は私の息子の婚約者です。

 話し合いの途中でちょっと揉めただけなんで、

 警察は呼ばなくて結構です!」



「あの・・・でも・・・血が・・・」






店員さんに指を指された左腕に目をやると、私の腕に血が滲んでいました。 困り果てた店員さんは、しばらく待つように言うと、店の奥へ消えていきました。






「母さん!! 何してんだよ!!」



「この人が悪いんでしょ!?

 人の話も聞かないで逃げようとしたんだから!!」



「もういいって!!

 こんな事したら余計ややこしくなるだろ!?

 なんで血が出るまでやるんだよ!!」



「お父さんも何か言ってよ!!

 私はヒロ君の為に一生懸命なんだから!!」



「こんな面倒な人なら、結婚しない方がいいんじゃないか?」



「面倒な女だから誓約書を書かせるんでしょ!?」



「もうやめろって!!!

 店の中で騒ぎを起こすなよ!!

 母さんは昔から、いっつも店で問題起こして・・・

 俺がその度にどんだけ恥かいてると思ってんだよ!!!」






宏樹の言葉で、ようやくママが黙りました。






「美砂、大丈夫・・・?

 もう帰ろう。 帰って俺らだけで話そう。」



「ヒロ君だけじゃ無理でしょ!!

 またこの女は同じ事を繰り返すのよ!?

 早く目を覚ましてよ!」






宏樹は私の右腕を引っ張って、無理矢理にその場から連れ出してくれました。 私たちが席を立つと、それを追うようにママとパパも店を出ようとしたのですが、レジの前で店員に引き止められていました。


宏樹は追っ手を撒くように道をジグザグに走っていたのですが、彼は私の腕を引きながら、涙を流していました。