別れ話(1) | ダーリンはマザコン

別れ話(1)

宏樹と付き合い始めた頃、まだお互いの欠点が鼻に付く前、私は宏樹の事を心から愛していました。 たまにおかしな発言や行動があっても、惚れた欲目で可愛く思えたものです。 そのくらい、私は宏樹を溺愛していましたし、何があっても2人なら乗り越えられると信じていました。


宏樹と私の間にクソババママの存在がはばかる様になってから、私の宏樹を見る目は徐々に変わって来ました。 ママが私を批難しようが、嫌おうが、私は宏樹さえ味方であってくれれば良かったのです。 なにも、かばって欲しいとまでは言いません。 ただ、そっと温もりを伝えてくれれば、それだけで良かったのです。



しかし、宏樹にとってママの存在は絶対的なものでした。



私がママに不本意な罪を擦り付けられたり、酷い仕打ちを受けても、弘樹は決してママに意見する事はありません。 私の主張を丸め込み、ママに従うよう諭して来ます。 宏樹の家のしきたりなど、どうしても歩調を合わせなければならない部分は、私も極力従うよう柔軟に対応してきましたが、いつしかそれは私の趣味や思想、果てには外見に至る部分まで及んでしまいました。


髪を黒く染めろ、化粧をするな、香水をつけるな、スカートを履くな、生理中は発情するから外出するな。 こんな滅茶苦茶なママの言いつけは、とても聞いていられません。 私は宏樹の婚約者である前に、一人の人間です。 宏樹の所有物でも、ママの所有物でもありません。 宏樹は私がママの言いつけを守っていないと分かると、その都度それをママに報告しています。



「美砂が生理なのに会社行ってる。」


「美砂がスカート履いてた。」



その度に私はママに呼び出され、 「売春婦みたい」 とか、 「狼を誘ってるの?」 なんて中傷を受けるのです。






そろそろ耐え切れなくなり、ついに昨日、初めて別れ話をしました。






「宏樹・・・。 私、やっぱり結婚できない。」



「どうして?」



「私は宏樹と結婚して、幸せを感じられる自信が無い。

 幸せになろうなんて考えてないけど、

 幸せだと感じられる日々を送りたい・・・。

 でも、宏樹とは無理だと思う。」



「どうしてそう思うの?」



「宏樹と私は、育った環境も受けた教育も、何も彼もが違う。

 恋愛中はそのギャップも良い刺激になっていたけれど、

 結婚生活には、このギャップが足枷になると思う。

 合わないんだよ。 私たち。」



「何がいけないの!? 俺が何かした!?」



「何がいけないって問題じゃない。

 宏樹のお母さんの事で分かるでしょ?

 お母さんはあんなにも私を忌み嫌っている・・・。

 嫁と姑が不仲な結婚生活なんて嫌じゃない。」



「そんなの関係ないだろ!?

 母さんに好かれるように美砂が頑張ればいいじゃん!!」



「私はこれまで十分やったよ!!

 何度も何度も馬鹿にされて、蔑まれて、家族まで貶されて・・・

 それでも宏樹との生活の為に、うまく取り入ろうとしたよ!?

 でも、何を言ったって、どう対応したって駄目じゃない!」



「しょうがないよ! 母さんは美砂を嫌ってんだから・・・。

 母さんだって、決して悪気があって美砂を嫌ってんじゃないよ。

 美砂に嫌われる原因があるから嫌ってるんだよ・・・。」



「その原因が、もうきりが無いのよ!

 指摘された所を直しても、また別の所を指摘されて、

 それを直せばまた他を指摘されて・・・。

 こんなの続けば、私が私じゃなくなるじゃない!」



「・・・そんなに母さんが悪いのか?」



「善悪の話をしてるんじゃないの・・・。

 私とお母さん、お互いにとって最善の道は何か・・・って事。

 やっぱり、関係を断つのが一番だと思うの。

 ここまで悪い相性も珍しいし、きっと何年掛けても和解は出来ない。

 正直言うとね、宏樹とママの距離も、私にとっては少し辛い。」



「・・・どういう事だよ・・・?」



「宏樹とお母さんは、互いに親離れ子離れが出来ていないのよ。

 その証拠に、弘樹は何か困った事があったり、私と揉めたりする度、

 必ずお母さんに相談や報告をしてるでしょ?

 私にとっては、他の人に知られたくない個人的な事だったりするし、

 何より、宏樹が私の意見をまったく聞かずにお母さんに相談するのが、

 彼女として耐え切れないの。 屈辱なの。」



「だって・・・母さんは美砂より人生経験が豊富だし、

 俺の事を誰よりも分かってくれてる人なんだよ?

 相談しちゃいけないの?」



「そうじゃない。 私の入り込むスペースがまったく無いの。

 宏樹の中に入り込むスペースが、まったく無いの。

 入り込もうとしても、お母さんがいるのよ。

 どんな小さな隙間にも、お母さんがいるの。

 私はお母さんじゃないから、入り込めないの。」



「・・・母さんが悪いのか?」



「違う。 悪いんじゃない。

 お母さんと宏樹の間に私が入れば、いつも問題が起きる。

 だから私は宏樹の傍らにいる。

 でも、お母さんはその私を快く思っていない。

 宏樹はそれについては無関心。

 喧嘩をすれば 「母さんに報告しておく」 だし、

 宏樹がお母さんに見えて仕方が無いの・・・。

 なんだか・・・いつでも蚊帳の外なんだよ・・・。」



「それは・・・母さんと美砂の問題だから、俺は何も出来ないよ。

 美砂は俺にどうして欲しいわけ?」








「別れて欲しい・・・。」