文顯進会長の「コリアン・ドリーム」の本からです。

 

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アメリカの独立戦争以前にも世界各地で数多くの反乱や蜂起がありはしたものの、いずれも神から賦与された普遍的原則に訴えるものではなかった。そして1776年7月4日、新しい国家の理念を提示しながら、独立の父たちが独立宣言書を作成、署名し宣布したのである。独立宣言書は、君主の恣意的であり絶対的な権力行使とそれを正当化する王権神授説に対する直接的な挑戦であった。(中略)

 

アメリカ建国の父は、これとは全く異なる道を歩んだ。君主の権威が絶対的であるという考え方を拒否し、その代わりに独立宣言書には人間の根本的な権利と自由は国家や君主ではなく、創造主が人間に直接賦与したものであると宣言したのである。そして政府設立の目的とはまさにそのような権利を保護するところにある。そのため各個人は生まれながらにして創造主から固有の価値を与えられており、その価値は各人に本質的な尊厳と、その尊厳の上に自ずと伴う権利の基礎を築くのである。このように、啓蒙された自由と人権の誕生は、普遍的な人権と自由に対する近代的な概念の方向性を提示した。建国の父たちは、平等な人権と根本的な自由の原則は、市民がこれを責任あるように用いることのできる徳性を備えた場合にのみ効果があると見た。自由市民は高い道徳基準に従わなければならないが、これは言いかえれば徳を備え自らを治めることができる人物のことを言う。(中略)

 

独立宣言書は、今日においても世界各地においてその影響力を及ぼしている。それは人権と自由、そして、人間の尊厳性に対する指向性が普遍的なものであるからに他ならない。まさにそれはアメリカ人のためのものではなく、万民のための宣言と言うことができる。アメリカの独立は、世界的に専制君主制を廃止させ、民主主義と自由市場体制に転換する近代的な政治運動を触発したのである。(中略)

 

韓民族は常に平和を愛してきた。数多くの外界の侵略や挑発にも関わらず、他の国を侵略した歴史がなかったと言われる。これは周辺国の歴史とは全く異なる特徴である。ではいかにしてこのような特性が韓民族の中に育ったのだろうか?その答えは、韓民族の独特な精神遺産の中に表れている。古朝鮮の建国の始祖檀君は、弘益人間の建国理念と、以道輿治、光明理世、在世理化の思想を土台として国を建設した。このような建国精神は、「人間に広く益をもたらす」という意味の「弘益人間」という精神に要約される。檀君は、「道徳と真理」によって世界を治め(以道輿治)、真理によって世界を啓蒙し(光明理世)、世界で真理が具現されること(在世理化)を願ったのである。真理の世界を具現するという夢は、人類の起源が天(ハヌニム)だということと、韓民族がそのような天から世のため人類のために生きよという特別な使命を受けたという点に対する理解に基づいている。(中略)

 

韓国人の精神性の中には弘益人間の理想が深く浸透しているため、我々は理想国家を建設し世界に寄与しようとする国家的熱望をリードする上で宗教が重要な役割をするという点を理解している。このような理解は、韓民族が苦難の歴史の中であらゆる難関を克服しようとする力の源泉でもあった。韓民族は物質的な面のみならず、より大切な精神的真理を渇望しながら、信仰に対する開放的な姿勢を形成してきたのである。

このような理由により、韓民族は苦難や試練がある度に精神的な悟りの中から意味と糸口を見出すのである。そうして韓民族は世界に奉仕するという神聖なる運命を自覚するのである。理想国家建設の羅針盤は真理である。真理に基づく弘益人間のビジョンは、悠久の歴史を重ねてきた韓民族の希望であり、これこそが韓民族の本質であり遺伝子である。

 

「全ての人間に益をもたらすこと」が我々の精神の本質だとすれば、コリアン・ドリームが持つ意味は明確である。これは朝鮮半島に平和と繁栄をもたらし、統一民族として東北アジア地域、究極的には世界に益をもたらすものでなければならない。コリアン・ドリームは南北統一に道徳的権威を付与し、世界に対して有益であらんとする情熱の内に平和を愛する啓蒙された国を作ることによって実現する。これこそがコリアン・ドリームであり、韓民族の課題なのである。(中略)

 

弘益人間のビジョンが韓民族の念願であるとすれば、これを達成するために踏み出すべき最初のステップとは一体何だろうか?それは他ならぬ南北コリアの統一である。

南と北の分断は、致し方のない「現実」として横たわり、それぞれがその状況を受け入れざるを得ないとは言え、このような状況が未来永劫に続いてはならないと私は考える。分断の継続は、韓民族および周辺国家群、更に世界全体において莫大なコストを生んでいる重荷以外の何物でもない。北朝鮮の不安定な政治経済と核兵器の開発は、韓国と東アジアをはじめとする全世界の安全保障と経済に対する常時的な脅威である。朝鮮半島の分断はただ韓国だけの問題ではなく、今世紀において人類全体を脅かし得る東アジアをはじめとする世界の問題でもある。私が今日の世界平和において最も重要な課題が南北コリアの統一にあると確信する理由はまさにここにある。

 

では我々は統一のために一体何をすればいいのだろうか?どこの誰よりも韓国人がこの問題の糸口を握っているのは疑いの余地がない。東アジアや世界を論じる前に、統一は一次的に韓国国内の問題である。南北コリア当国の間で論議される政治的・経済的・軍事的問題に先立って、朝鮮半島の分断は韓民族の家族の運命、更にはアイデンティティーをも揺るがしかねない非人道的な悲劇である。韓民族は過去の歴史やルーツを忘れてしまうのだろうか。

 

私は分断された韓国で生きることを望んでおらず、そのような現実を受け入れる気もない。私は可能性を抱き、希望で活気の溢れるそのような統一コリアを夢見ている。過去、現在、未来、そして東西洋の最善の在り方を反映した文明国としての韓国を希求するそのような念願を「コリアン・ドリーム」と名付けたのである。