P『そそほほ、ほんなら入ろうかぁ~…』





…所要時間約5分に渡る、焼肉屋『モー太郎』に関する講釈もようやく終了の兆しを見せ…

パチモトはあたかも、

『酔った部下のOLをホテルに誘う中年サラリーマン』

…を彷彿とさせる物腰で、みゆきさんをモー太郎へとエスコートでございます。







『エラッシャイマセ~!!』







本場韓国気取りな日本人・キム店長(48歳・本名=木村)に迎えられ、ようやく私たちが席に着いたのは夜の8時近く。

宮益坂のファーストキッチンを出てから、はや2時間半が経過しておりました。






キム『エラシャマセ~! 今日のオススメはシイタケ、ナリます






コイツはいったい、どれだけシイタケが好きなのか…

あるいは、シイタケでどれだけの莫大な利益を得ようと企んでいるのか分かりかねますが、キム店長は涼しい顔でシイタケを勧めつつ、メニューとおしぼりを配布。



ですが今は…シイタケなんぞ問題ではございません。



さすがに私も、当時は20歳そこそこの育ち盛り。

焼き肉屋で…

…しかもパチモトのオゴリとなればシイタケなんぞチマチマ食べている暇はございません。

とにかく、肉を食らうべし…でございます。







P『やや、やっぱり最初はワインで乾杯やなぁ~…』







そんな矢先…

私とみゆきさんにフードメニューを取り上げられ、所在なさそうにドリンクメニューを眺めていたパチモトがトチ狂った提案をしやがりました。





私『ぁあ? ワインだぁ?』





そう…いったいな~にが『ワインで乾杯』でしょうか。

フレンチやイタリアンならいざ知らず、焼肉を食うならまずはビールが王道。

百歩譲って、超高級店での超高級焼肉なら話は別でございますが…

そんなもの、かぼちゃワインの様な顔をしたコゾーが、庶民の焼肉屋で飲む代物ではございません。







P『ななななんぼなんぼ~…でででもせ、せっかくの夜やから…』

私『うっせーな、ビールを頼め、ビールを』

P『なんぼ~…わわわかったよぉ~。じゃ、じゃあGはビールで…』

私『さっさとしろよバカ







ようやく理解したパチモトに対し、丁寧にお願いすると再びメニューを眺める私。

そうそう、肉を目前にしながら、パチモトなんぞにかまっていられません。







P『じゃ、じゃあみゆきさんとM子さんはワインでええかなぁ~?』

M子『わ、私はお酒はちょっと…ウーロン茶で』

P『おぉっ~と!! MM、M子さんはウーロンティー…っと…みゆきさんはワインで…?』










み『…いいちこ、ボトルで』










…だ、大丈夫かな、この人。





表情を一切変えず、一杯目にしてはあまりにも大胆なオーダーをかますみゆきさん。

その大胆不敵な笑みに、若干驚いてしまった私ではございましたが…

私が驚きを感じたのは、そういった理由だけに留まるものではございません。





パチモトの金で飲むのはおおいに結構ではございますが、何しろみゆきさんにはこの後…



『英会話テープ販売』



…という、彼女自身のランクを左右する大きな商談が控えているはず。

そんな折

『下町のナポレオン』

と言われて高い、名酒『いいちこ』をボトルで飲み干さんとする等…

通常のビジネスシーンでは考えにくい行動でございます。





…が。

しかし、それは私の杞憂でございました。










P『ぶほっ!! みみみみ、みゆきさん強いんやなぁ~…なんぼなんぼ~!』

み『…ねえ~…パチモトくんも一緒に飲もうよ…』

P『なななんぼっ!! い、いいのぉ~!?』

み『…だって…強いんでしょ、パチモトくん』

P『そそそそ、そうやなぁ~…けっこう酒豪やなぁ~










なるほど…そういう事でしたか。




『けっこう酒豪』という中途半端な表現で自己アピールするパチモトに対し、しなだれかかる様なそぶりを見せつつ、下から目線で見上げるみゆきさん…

それはまるで熟練のホステスさん…

いえ、百戦錬磨のスナックのママをも彷彿とさせる姿でございます。










み『パチモトくん…今日はたくさん飲もうね…』

P『なんぼ…い、い、いいのぉ~?』










こうして…みゆきさんにとっては順風満帆と言えるスタートを切った商談…

もとい、『焼肉飲み会』。

モー太郎渋谷南口店の窓から見える月は…

まるで金塊の様に光り輝いていたのでございます。







(続く)